敗者の予想外の報い、茶会の主人の褒美。そして
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「さま、いさま、にいさま、兄様、兄様。」
目を開けると、空と我が愛しの妹カテナが見えた。
「兄様、お目覚めですか?」
その表情は、どこかホッとしたような、悲しいような、しかし怒っているような、不思議なものだった。
「あぁ、そうか……俺は、負けたのか?」
意識が途切れる前を思い返して、ぼやけた光景を繋ぎ合わせようとして、全身の倦怠感と痛みで顔を顰める。
「はい、もうバッチリ。皆々様の前で大負けに負けました。あそこまで大口を叩いておいて、兄様はとても情けないです。」
「随分と、嬉しそうだな。それに……呼び方がお兄様じゃなくて、昔みたいだ……。」
「大勢の前で負けて、大口を叩いた末に負けて、最後の最後に相手に情けをかけられて、カヨウは兄様がとても情けないと思いました。
けれど、誇らしかったです。」
「誇らしい?」
「大勢の前で勝ち、大口が大口ではなく、相手に情けをかける兄は世界に何人もいるでしょう。
しかし、思い出したのです。
カヨウの為に真剣に怒り、勝利のために必死に鍛錬してくれる兄様は、シソーデ兄様ただ一人だけなのです。
兄様は、情けなく負けましたが、カテナが誇らしいと思える、格好良い兄様でした。よく頑張りました。
ありがとうございます。」
妹の目の奥にいつもあった、燻った黒い火の様な何かが無くなっていた。
初めての敗北。悔しさ以上に初めての経験で戸惑っているが、一つの敗北で我が愛しの妹の明るい笑顔が見られるなら、悪くはないと思えた。
「ふー……」
気付かれないように息を吐く。
「ヤヤーナ様、お疲れさまでした。」
決闘をした二人に贈られる拍手喝采。これは自分に向けられたものではないが、それはこの『決闘茶会』という催しへの称賛であることは間違いない。
「盛況であったな、ヤヤーナ。」
聞き慣れた鋭い声が飛んでくる。
「お、お父様!」
背筋が引き千切れそうなほど、伸びる。
「良い、私に構うな。茶会とは、お開きになり、客人が満足して家に辿り着くまでの事を指す。
未だ終わっていない以上、茶会の主人は己の使命を全うすることを最優先とせよ。」
「……わかりました。」
リバルツ家当主、クロージンが我が子に背を向けた。
「今日の催しだが、中々楽しめた。」
その言葉は、茶会の主人の耳に届いた。
それを聞いたヤヤーナ=リバルツは、大いに喜んだ。
「随分と不器用な親だな。」
「放っておけ。」
「いや、にしても今日は楽しかった。有難うな。」
「それは、茶会の主人に言うと良い。私は今日の催し、何もしていない。」
「ハハ、謙遜だな。一介のコックと比べるのは不敬だが、何もしてない俺より余程気と手を回しただろうに。」
「あぁも仕上げたコックが『一介のコック』とは片腹痛い。
料理の腕もそうだが、それ以外にもあれだけの腕があるなら、我がリバルツ家は貴様を歓迎しよう。」
「ん?何の話だ?」
「とぼけるな。話は聞いている。あの唐変木の倅に稽古をつけたのは貴様であろう?」
「ん?」
「違うのか?」
「いや、坊に稽古をつけてたのはウチに新しく来た家庭教師先生だ。ここ2週間は茶会の件でお怒りで、何も教えちゃくれんかったらしいがな。
だから、この2週間、坊は一人で特訓してたみたいだな。」
「私が聞いた話とは矛盾するな。
ヤヤーナは、貴様がこの2週間稽古をつけていたという話をあの男の倅から直接聞き、貴様をあの席に座らせたと言っていたぞ。」
「俺はそんなこと、一切していないぞ?」




