学びを血肉に変えようとする者、変えた者
『ゆっくりから始めて行きましょう』と言ったのは誰だったか?
クソガキが魔力と体力が尽き、今日も良く眠れる……というか気絶寸前の状態、這う這うの体でディナーへと向かった。
シェリー君は結局平然とそのまま席に着き、食べ終え、そうして夜。
『身体強化』
全身に魔力が流れる。それは華奢な少女に力強さを、僅かに手を伸ばす力を与える。
そして、その状態を維持したまま……歩き出した。
ゆっくり、ゆっくりと、目を瞑り、静かに歩く。
あり余る力を全力で振るわずに、ゆっくりと、日常の動きをなぞる。
(『身体強化』はどう動くかをイメージして、その為に必要な強化をそれぞれに施すことでより効率的で強力になる魔法。私は他人に教えておきながら、それを失念していました。
もし、あの魔法が極限まで最適化した魔法であれば、私は根本的に間違いを犯していたということになります。
先ずは基礎から、自分がどう動かしているかを、どう使っているかを再度確認するところから始めましょう。)
と考えてのことだ。
結論から言おう。かの淑女が餞別として贈ったあの魔法。その深奥からはほど遠い。
淑女と少女には決定的な違いがあるからだ。
遠く遠く遠く掴もうとしても手は届かない。見ることも困難な遥か彼方の星だ。
ん?私にはあの魔法の正体が解っているのか、だって?
魔法に触れたのは最近の話。まだまだ若輩者だが、侮って貰っては困る。
そこに法則があり、実際に目にし、それに再現性があるのなら、出来ない道理はどこにもない。
あれは魔法という法則に則ったもので、実際に目にしたあれは小細工ペテン幻の類ではなく、再現性のあるものだ。
だから贈った。
シェリー君と淑女の間に決定的な違いが、隔たりがあり、それ故に起こるこういった苦悩と試行錯誤と思考を予測して渡した。
まったくもって、素敵な教育者だよ。
私はかの淑女に敬意を表し、そして同意見故に何も言わない。
このまま気付かず終わるか、それとも気付いて掴むか……。
このまま気付かれずに終わるか、それとも気付いて掴まれるか……。
音を消して徐々に近付く。猫のようにしなやかに、衣擦れさえ起こさずに、そして首を握り潰す。
チェックをすり抜け、警戒心を抱かせず、音も無く首の骨を砕く。
音がするのは終わったときだけ。
夜の学園の廊下にて。見回りをする淑女の首に男の手が伸び……
手が閉じる瞬間、手首を何かに掴まれた。
「淑女の肌に断りも無く触れるなど、紳士の風上にも置けませんよ。」
手が閉じる寸前、体が浮いた。
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次回、久々淑女回です。




