考えなかったのですか?
便利なもの、有用なものは人に幸福と莫大な利益をもたらす。
人はそれを知っているから更なる便利なもの、有用なものを作り出した。
結果、便利で有用な兵器が生まれ、人に不幸と致命的な損失をもたらした。
有用なもの、便利なものを使うとき、生み出すときはイメージしなくてはならない。
それがもたらす負の側面を。
便利で有用であればあるほど、牙を剥いた時の獰猛さは致命的なのだから。
「魔法を使って縄を焼き切り、拘束から逃れようとした。
けれど失敗して、暴行を受けた……。」
火傷の上に重なるように暴行の傷が幾つもあった。
縄を焼き切るアイデアを思い付きで行って火傷。挙げ句にそれを見られて激昂されてあのザマになった、と。
「………………」
回答は沈黙だった。
「私は貴方に魔法を教えていました。いたつもり、でした。
それがどれだけ危険かを、使いどころを間違えてはいけないことを、使ったらどうなるかを教えていなかったので、私は貴方に何も教えていなかったということになります。」
「………………」
正直、それはどうかと思うがね。
自分に巻き付いているものを火で炙ればどうなるか?
火を点けると視覚的、嗅覚的にどうなるか?
それを見た誘拐犯がどう動くか?
家庭教師がそんなことまで教える必要があるかね?
「何故そんな危険な真似をしてまで逃げようとしたのですか?」
「………………怖かったんだ。だから…………」
重い口を開く。だが残念、嘘が混じっている。
「恐怖から逃れるため、それだけでしたか?」
「………………」
「魔法とは、非常に強力な力です。1つの魔法で1人の人生の行く末を変えることが出来ます。」
問答無用で殺す犯罪術式。
理不尽を許さぬ反罪術式。
これらはその最たる例だ。
「だからこそ、使うときには良く考えてください。
勿論、魔法が無くとも言えることです。
貴方は力を持っているのですから。」
「………………」
誉めていない。事実を並べているだけ。
笑顔はない。淡々と相手の目を見て視線を反らすことを許さない。
「火の調整を間違えたら、この程度では済まないと、考えなかったのですか?」
「………………」
「焼き切る時に臭気や光で気付かれると、考えなかったのですか?」
「………………」
「暴力に慣れている狡猾な人々を相手に、逃げ切れないかもしれないと、考えなかったのですか?」
「………………」
「失敗したら自分は無事では済まないと、考えなかったのですか?」
「………………」
「貴方のその行為全てがカテナさんを悲しませると、考えなかったのですか?」
ここ数日出先での投稿になってしまったのですが、ブクマと評価が、沢山に!
ありがとうございます。
さぁて、読む阿呆がここまで来たんだ、どうせなら書く方も徹底して阿呆やってやりますよ!




