偶然より自然
「あぁ、ご紹介を。こちらの方はこのゴードン家の厨房を仕切る凄腕コックさんのスティーブ=レイバック様です。
そして、改めてこちらの方々はモラン商会のデルビスタ様とファルツ様です。」
「あぁ、よろしく。レイバックだ。」
「よろしくのー。
で早速、謝らんといけないことがあってのー。奴に逃げられてしまった……。」
「ごめんねぇ。」
二人が車から降りて頭を下げる。この二人はあわよくば後詰めを仕留めてここまで連れて来る心算だった訳だ。
「いいえ、謝る必要はありません。
今回お願いしたことはあくまで時間稼ぎです。私一人ではあの場で無事撤退戦を完遂することは難しかったので……」
あぁ、ちなみにこの場合の『無事』は『双方無事』という意味だ。
『片方だけ無事』なら、幾らでも選択肢はあった。
「すまんのー、ただ、そっちでしくじった分、もう一つの仕事についてはキッチリやってきたから心配せんでのー。」
「ありがとうございます。では報告をお願いします。」
「んー、昨日の晩辺りからあの町の裏っ側でゴタゴタがあってのー。普段から小競り合いってのは幾らもあったんだが、今回はそうもいかなかったらしいんだのー、これが。」
「ねぇねぇねぇ、昨日はね、過激派の人達が武器を持ってどこかの店を襲おうとしたらしくてね、穏健派の人達がそれを止めようとしてああなっちゃったんだってねえ。」
「しかも、その辺に偶々居た子どもを庇ってのー。背中からも大分ひどくやられたらしいのー。」
コックの表情は変わらない。
ナイフから包丁に得物を変えても一流のプロ。そう易々と己の動揺を顔に出したりはしない。
「あぁ、この二人はまた町に戻るので、その時に『それ』を彼らに渡してもらいたいなと思ったのですが、どうでしょうか?」
「あぁ、頼もうか。」
コックの手にあった大きな籠、手持ちではなく背負う籠を二人が受け取る。
「もう夜も遅いので、先にお休みください。私はお二人と話したいことがあるので。」
「あぁありがとう、ありがとう。おやすみ。」
コックは振り返って屋敷へと戻っていった。
「良いのかのー?」
「これで良いのです。お二人とも、そちらの籠をお願いしてもよろしいですか?」
「まかせてねぇ!」
「任されたのー。」
籠を車に載せ、そして息を大きく吐いて車載の魔道具を起動する。
周囲の音が止んだ。
「会長の言う通りだったのー。」
「ねぇねぇねぇ、あの後町の病院とか医者に話を聞いたんだけど、ケガをして運ばれたのはほとんど穏健派だったんだって。
ねぇねぇねぇ、これって偶然?」
「偶然と片付けるより、意図的だと語る方が自然ですね。」




