誠実な正直者の嘘吐き適性
表情は穏やかに茶目っ気たっぷりに。
自然な表情、手足の動き、息遣いで向き合う。
そこに隠された意図なんて無いと相手が信じて疑わない様に。
それは詐術。人を欺き偽りを真実と信じさせる技術。
本来なら忌むべきもの。しかし、今はとある疑念を払拭するためにどうしても必要な行為だと判断しました。
ここで疑いを晴らします。そのために私は素敵な人に嘘を吐きます。善良な人を騙します。
『君の誠実さと正直さは、面倒事に巻き込まれる要因だ。正直致命的な欠点と言ってもいい。
だが、人からの信頼を獲得するその力は強大な武器になる。例えば、嘘を吐くときにね。
君の普段の振る舞いを見ている人間は真っ先に君を容疑者から外す。嘘の可能性を排除して考える。
君には嘘吐きの素質があるよ。』
教授から聞いた言葉を思い出しました。それは嬉しくありませんが、今回はそれを使わせていただきます。
ごめんなさい、どうか許さないで下さい。
「既に伝わっているかもしれませんが、レイバック様が手配した方々は、怪我を負って現在病院に搬送されています。」
「あぁ、バトラーから聞いた。聞きたいことにこたえるって言った後でなんだが、あいつらは、無事だったか?」
骨折と打撲、僅かに出血もあった。徹底的にやられてはいたが、命に別状は無い。
「重症と言えば重傷ですが、病院に運ばれた段階で意識はありました。皆さん命に別状はありませんでしたよ。」
「そうか、良かった……」
安堵は本物だった。シェリー君も同じ様に見ている。
「病院の場所は聞いていますか?」
「いや、知らない。必要も無い。」
その答えには諦観と寂寥が混じっていた。
「理由を、聞いてもよろしいですか?」
「あいつらはな、悪友なんだ。
一緒に馬鹿や無謀や無茶をやって、この歳までしぶとく生き残ってきた悪友。だからな、昔こう言われたんだ。
『お前は立派な仕事を手に入れた。もうならず者の巣窟に顔を出して平気で出てくる真似は許さない。二度と顔を見せるな。もし、次会う機会があるとすれば、それは誰かの葬式の時だけだ。』ってな。
まぁ、手紙は拒否されなかったから、忘れた頃にコック謹製保存食と一緒に手紙を送り付けているが。」
「皆さん素敵なお友達なのですね。」
「あぁ、気の良い奴らでね、背中を任せられる奴らだったんだよ…………やった奴らの情報があったら教えてくれ。」
隠す気は最早無い様だが、だからと言って殺気を漏らすのは止めて貰いたいものだ。
「……保存食、というのは直ぐに用意できるものですか?」
自分に向けられていない殺気故にそれを流し、質問を続けるシェリー君。
「今か?ジャーキーにソーセージ、スモークしたチーズくらいならあるが、食うか?」
立ち上がろうとしたコックを制止する。
「いいえ、私には必要ありません。ただ、もし何か彼らに渡したいものがあれば、用意していただけませんか?」
「解った。」




