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冷たい食事


 その夜の食事はそれはそれは悲惨なものだった。

 先ず、空気が食事に適したものではなかった。

 執事が限界まで穏便なハプニングという形で当主と夫人に説明したものの、両者がクソガキに向ける視線は露骨に鋭いものだった。

 クソガキはそれに気付いているものの、それ以上に己の軽率な行動のせいでメイドが罰されるという事態が突き刺さり、項垂れていた。とはいえ、しっかり食事は残さず食べるだけの図々しさはあったので今特に何かをする必要は無い、そもそもこの一件はクソガキが撒いた種も大きな要因。浅慮には良い灸になった。全身欠けずに勉強できたなら十分。放置だ放置。存分に気にしておけ。

 オドメイドは帰って部屋に直行、そのまま謹慎となった。

 こちらから如何こうアプローチする必要は無く、義理も無い。こっちも放置だ。

 執事も一度放置。

 正直、この家の連中が葬式と世界の終わりを足したような空気になったところでどうでもいい。

 問題はコックだ。

 料理の腕が落ちたとか、砂糖と塩を間違えたとか、そういう技術的な点において問題は無いが、露骨にこちらも落胆している。

 クソガキの狂言誘拐実行に手を貸して、そのための人手を用意したがそいつらはボコボコににされて病院送り。

 挙句にクソガキを掻っ攫われて狂言誘拐を狂言でなくしてしまった。

 知人が病院送り、子どもを危険に曝すという失態はコックのセンスを鈍らせた。


 今日の夕食:ローストビーフの冷製パスタ


 陽射しが肌を焼く夏真っ盛りではない。なんなら肌寒い今日この頃である。

 そんな日に熱いスープや温野菜のサラダは出ず、冷えに冷え切った冷製パスタだけを出すというのは、ホスピタリティーに欠ける。

 「味は申し分無いのだがね。」

 ローストビーフはしっとり仕上がっている。パスタの茹で具合も味も良い塩梅だ。

 味に問題はないのだ。

 「後程、レイバック様にはお声がけする必要がありますね……」




 食事は粛々と終わり、愉快極まりない空気のまま、明日を迎えることが決まった。

 シェリー君は明日の下準備を終え、頃合いを見計らい、厨房のコックの元へと向かう。

 「レイバック様、少々お時間をいただいてもよろしいでしょうか?」

 「ん?あぁ、少し、待っててくれ。」

 動きが露骨に悪い。表情も優れない。それを見たシェリー君は憂いの表情を浮かべていたが、同時に安堵も抱いていた。

 「待たせたな、なんだい?」

 なめらかな果実のシャーベットとアイスティーを差し出された。この男の心の冷え切り具合は何なんだ?

 「今日のことについて、レイバック様に幾つか聞きたいことがあります。ご協力いただけますか?」

 「すまない。俺がしくじったばっかりに坊には怖い思いをさせて、先生にも大変な思いをさせた。」

 大きな体を縮こめて頭を下げる。

 レイバックのことについては執事の話の関係でお咎めなしとなっているが、当事者として責任は感じている。

 「いいえ私はちっとも。御覧の通り強いので、全員あっという間にやっつけてしまいました。」

 ファイティングポーズをして笑って見せる。

 似合わない、だがどこか可愛らしい姿を見てコックは表情を綻ばせた。


 いいねが増えていました。嬉しいです。

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