信賞必罰は世の理ゆえに
平手打ちをしたオドメイド。
呆然とするクソガキ。
シェリー君は座ってそれを傍観していた。
「君にしては大人しいね。普段なら、未然に止めるだろうに。」
「そうですね、そうかもしれません。」
絶対に平手打ちを許す距離にまで近寄らせないだろう、君は。
「理由は聞いても良いかね?」
「……そうですね。今日の彼の考え方、私に勝つために協力を仰いだ姿は賞賛すべきだと思います。
自分一人の力ではどうにもならないと理解し、認め、その上で諦めなかった。
それが無意識であったとしても、それは成長の兆しだと、生意気にもそう考えています。」
真の無能は自分が有能だと思い込んでいるからね、だから成長せずに自尊心だけ増えた怪物になる。
その点で考えれば、今日のクソガキが協力者を募る時にコックに頼ったという事実は適解と言える。
まぁ、詰めが甘過ぎたが故に忍び寄っていた危険に全く気づけなかった訳で、結果で考えれば赤点だがね。
「しかし、彼は周囲の人々のことを、カテナさんのことを考えていませんでした。
たとえ狂言とはいえ、私という敵を騙すために情報漏洩を避ける必要があったとはいえ、彼女にだけは打ち明けるべきでした。
自分を思う人にあそこまで心配をさせるのは、反省すべきだと、私は思います。」
「反省、ねえ。」
「効果は十分のようですね。」
今、オドメイドの前にクソガキは座っている。
目を伏せ、拳を握り、歯を食い縛って涙を堪えている。
「全く、単純な生き物だ。」
「教授、人は複雑怪奇な生き物ですが、それ以上に単純で純粋な生き物ですよ。」
知ってるさ、だから操りやすい。
「なるほど。この状況に至った理由がやっと解りました。」
それから32分経過して戻ってきた執事がその場の光景を見て、シェリー君から状況を説明された結果、眉間に指先を当ててそう呟いた。
「カテナ、貴方は三日の間謹慎を言い渡します。その間外に出ることと働くことを禁じます。」
「そんな……なんでだよ!」
執事の裁定に対してクソガキが怒声を響かせる。考え無しめ、このクソガキが。
「彼女は主に手を挙げたのです。それは、従者として許されるべきことではありません。
カテナはモンテル様の従者ではありますが、ゴードン家に所属する者でもあります。罰を受ける必要があるのです。」
「悪いのはボクだ!僕を罰しろよ!」
「その通りです。悪いのはモンテル様、貴方です。
貴方も後程旦那様より罰を受けることになるでしょう。それは、お覚悟を。
さぁ、今日はもう帰りましょう。モンテル様、帰ったらドクターの診察を必ず受けてください。
では、わたしは馬車を用意して参ります。」
淡々と執事はその場を去ろうとして、止めた。
「バトラー様、一つ聞いてもよろしいでしょうか?」
「何でしょうか?
あぁ、モリアーティー先生へのお礼が未だでした。モンテル様を救って下さり、誠にありがとうございます。
お礼は後程正式に、という形で……」
「いいえ、そういった事は必要ありません。結局、彼には怖い思いをさせてしまったので。
それより、聞きたいことが一つ。
バトラー様がここに戻ってくるまで何処を探していたかを知りたいので、大まかなルートを教えていただければと。
無論、後ほどで構いません。」
「……承知いたしました。」
お辞儀をして、その場を離れようとしたところで、更に言葉を加える。
「あぁ、それともう一つ。」
「はい?」
不意を突いた。
「怪我は大丈夫ですか?」
「……大したことではありません。少し、転んでしまいました。」
汚れ一つない服に身を包んだ執事は、少しだけ腫れた頬のまま今度こそその場を去った。
一度投稿時間を試しに朝早めにしてみます。




