弱くても戦う。強くても逃げる。
「ほらほら、どうしたのかのー?動きが鈍い、のー!」
なんなく回避出来る。そう思っている時に限って体が動きを止める。
電気を帯びた鉄の玉。大した威力はない。
けれどそれが幾つも、一番嫌な時に仕掛けられるとなれば、この上なく不愉快だ。
それならと短杖を使う男を狙う。
「甘いのー。」
それを許すわけがない。
あっという間に肉弾戦に持ち込まれる。
「…………ねぇねぇねぇ、何か変じゃない?」
「奇遇だのー。こっちもそう思っていたところだのー。」
こちらを見る目が変わる。
兎を狩る獣の目から、脅威を見る目に。
「電気、ちょっとずつ強くしてたんだよねぇ。
今の電気なら、普通痛くて耐えきれないんだよねぇ。
ねぇねぇねぇ、何?」
「さっきから妙なものを殴ってるような感覚でのー。
筋骨隆々なのに柔っこい感覚でのー、当たってる気がせんのー。
なんの手品かのー?」
これ以上は不味いと本能が吠える。
それは解っている。
けれど、生け捕りにする気で手加減をしている甘い奴ら相手に、それでも突破できないのが現状だ。
退こうとすれば素手の男が半歩前へ進み、短杖の男が半歩後ろに退がる足を止める。
進もうとすれば素手の男が半歩後ろへ退き、短杖の男がそれをもう半歩分後押しして避ける。
地の力だけならこちらの方が強い。しかし戦い慣れている。自分達の身の程を弁えている。だから隙を作っても必要以上に踏み込まないし、必要以上に攻めても距離を置かない。
苛立ってしまう程徹底的に死なずに勝つ方法を心得ている。そしてこのままだと数の利で消耗戦になって、負ける。
それは、避けねばならない。
見られる訳にはいかない。
さっさとお前は消えろ。
走って、走って。
生き延びろ。
死はそこだ。
逃げろ。
総毛立つ。
捕まってはいけない。
どんな勇者からもどんな蛮族からもどんな智者からもどんな強者からも。
臆病者は逃げ切る。
どこまでも。
体中に力が巡る。
それは闘争を求める本能ではない。
それは逃走を渇望する本能なのだ。
勝利するために体が最高で最善の手……足を生み出す。
勝つ事は争いに勝つことではない。
「ねぇねぇねぇ、勝負に出るよ。」
短杖を構え、金属の玉が一層帯電する。
「せっかちだのー。」
そう言いながらも素手の男は構えている。
沈黙が世界から三人を切り離す。
この切った張ったの大立ち回りは次でおしまいだ。
足の筋肉が爆発的に膨張する
紫電を帯びた弾丸が襲来する
拳が空気を切り裂き圧縮する
そして、閃光が3人の視界を奪った。
「ねぇねぇねぇ!他に無事な奴なんていなかったよねぇ!」
「のっ!」
予想外の出来事に目を瞑る。
「…………!」
その場にいた3人が予想外の出来事に気を取られ、止まった。
光が消えた。
「……やられたのー。」
「ねぇねぇねぇ、今から商会の力で追いかければ何とかなるかな?」
「難しいのー。」
2人の前から、謎のフードは消えた。




