爆ぜる恐怖
※前話に続き注意をお願いします※
一歩ずつ、ゆっくり近づいていく。
「お前達、やるぞ。」
クソガキを盾にしながら合図をする。すると一本道の前から後ろから、ゾロゾロ不衛生な破落戸不良が武器を手にぞろぞろ現れ、おまけに建物の上、両側から覗く意地の悪い視線が向けられる。
その数ざっと20人。お嬢様学園の生徒とはいえ、小娘一人を相手に随分と手厚い歓迎の仕方だ。
「逃げ場は無い。悲鳴なんてあげても意味なんざ無いからな。」
逃げ場を無くすための一本道。死角になる上部からの攻撃。袋叩きにする戦術としては十分理に適っている。だが、一つ問題があった。
「げぇ!」
背後からやって来る連中の内、一人の首を掴み、掲げる。
一本道の真ん中で袋の鼠。だが、一本道なら一人ずつ片付けられる。地の利が活かせていない。そして、統率の取れていない烏合の衆相手なら、こんな手が使える。
『爆ぜる恐怖』
首を掴んだ男に魔法をかけた。
爆発にどんな脅威があるか知っているかね?
皮膚を焼く高熱?
鼓膜を破るほどの爆音?
目の前を真っ白にする閃光?
全身に飛び散り突き刺さる破片?
全てその通りだ。
だがこれらは一言でまとめられる。
『恐怖』だ。
『衝撃的な知覚』と『死』が合致することでもたらされる『死の恐怖』というイメージ。それが爆発の意味だ。
「貴方も、こうなりたくないでしょう?」
首を掴まれていた男の体が地面に落ちる。首から上は今しがた起きた爆発の名残で靄がかかっている。
「貴方達も、こうなりたくないでしょう?」
周囲にいた連中は視線を向けられ、凍り付く。
だが、臆病風に吹かれた一人が錯乱して特攻する。だが錯乱した者の動きは単調。
シェリー君が組み伏せ、跪かせる。それでも暴れようとしたところで頭を掴む。
「この野ろ……」
膝をつかされ、頭を掴まれ、それでもなお悪態をつこうとしたが残念、中断させられる。
『爆ぜる恐怖』
悪態より速くそれは発動する。
薄暗い闇で目を焼く光、悪態を掻き消す爆音、凄惨を隠す白い靄。
掴まれていた頭が爆発し、辛うじて動いていた手足が爆発と連動して動きを止めた。
「さぁ、次は貴方達です。」
爆破してまだ首から上が靄で覆われたそれを、もはや用無しとばかりに捨て置き、次へと向かう。
見ての通り。
私は決して許さない。
こうやって死ぬか、生き恥を曬して逃げるか、選べ。
と、相手は思って震えている。暴力の匂いをさせておきながらなんと情けない。
クソガキの面なんてもっと情けない。漏らしそうな顔をしている。
だが、残念。この魔法、『爆ぜる恐怖』は人を殺せない。
相手に触れ、『水流操作』の応用で靄を発生させつつ『電撃』で相手を気絶させ、その上で『爆音』で爆発音を周囲に響かせる。
靄の中に手を突っ込んで頭の有無を確認するか、靄が晴れるまでの間、局地的な爆発で頭が吹き飛んで事切れたように見える。
故にこの魔法は『爆ぜる』ではなく『爆ぜる恐怖』なのだ。
電撃で気絶させるだけの虚仮威し。
その場しのぎの張りぼての脅し。
だが、恐怖は爆ぜる。
冷静さを、蛮勇を、戦意を瓦礫の山に変える。
殴って痛め付けるだけが、切って血を流させるだけが戦いではない。殺しではない。
頭数が多ければ恐怖は感染する。
誤字脱字報告してくださった方ありがとうございます。
そしてSNSで宣伝&アニメを見て下さった方ありがとうございます。
最後に、読んでくださってありがとうございます。




