悪意と策謀潜む伝言ゲーム
金槌が後頭部に直撃する。
なのに
なのに
なのに
「あの方は、間違い無く別人ですね。私の探している人物ではありません。」
後頭部に金槌が直撃した。手応えはあった。
柔らかな髪と皮膚があって、その奥にある頭蓋が砕けて中身がこぼれるような感覚があった。
ゆっくり、振り返った。
血の一滴も流れてない。
苦痛の表情一つもない。
まさか何も起きてない?
「さて、それで終わりなら、ここからは、こちらの番です。」
金槌を指さし、笑顔を浮かべている。それはまったく怖くない。
「ひ……ぁ、ぁ、ぁ、ぁ…………」
腰が抜けた。
怖くない。
武器を持ってるわけじゃない。その裏に何かがいるわけでもない。
だから、怖かった。
なんで殺そうとした相手に笑って手を差し伸べられるのか?
誘拐犯は、人質が人質になるまでの間の長い長い痕跡を消すわけがない。
それをやれば目立つ。そこで足がつけば全てが泡沫になる。だから痕跡を丁寧に消すことはしない。
それでも、追われては困る。
追跡され、気付かぬ間に後ろから刃を突き立てられれば人質という盾は使う前に終わりだ。
だから、警戒する。
痕跡を追おうとする者がいれば、そいつに視線を向けざるを得ない。
そいつが自分達の見落とした痕跡を見つけ、予想だにしないタイミングで襲い来るかもしれないと恐怖する。
だから、見張りを用意する。
痕跡を探す奴を見つけ、様子を見て、場合によっては始末する役割の奴がいる。
そんな奴が、だ。
『男の子を見ませんでしたか?特徴は……』
そんな風にあちこちで探し回る世間知らずのお嬢さんを見付けたら、当然そちらに目を向けるし、様子を見て、場合によっては始末する。
『僕見たよ!』という餌で釣って、人通りの少ないところで後ろから……。
「な、なんで、いつから……?」
「都合が良すぎるのですよ。目撃者が全く無かったというのに、急に具体的な場所が解るなんて、あまりに出来過ぎていました。なので、最初から確信していました。」
ここまでは簡単に予想できる展開だ。そもそもこの大工風は、目撃者を偽るには詰めが甘い。
「それに、おかしいところは他にもありました。
私は目撃者を探す際、皆さんに具体的な服装・出で立ちを伝えておきました。
そして、貴方はそれを知っていました。私が皆さんに伝えた内容を正確に答えて下さいました。」
なら問題ないんじゃ?という顔を浮かべた。
「だから、ですよ。
伝聞や噂は伝言ゲームと同じ。聞き忘れた部分があり、勘違いした部分があり、誇張した部分があり……情報が変質せずに正確に伝わるなんて、不自然極まりないことですよ。だから思ったのです。
この方は私の話を直接聞いておきながら伝聞で聞いたフリをしているのだと。
本来善意の第三者ならする必要のないことをわざわざして、私をこっそり観察していたことを隠したいのだと。
そこまで来たら、もう目の前の方の目的とどんな方かは容易に想像ができますよ。
あぁ、最後にもう一つ、不自然なことがありました。」
人差し指を空に向けて言った。
「この石の町で建築をするのに木を切る道具しか持っていないのは不思議だなと思ったのですよ。」
ブックマークと宣伝を、頂きました。
手前は不得手故、ありがとうございます。




