微々進歩
午前は魔法の基礎的な使い方を学んだ。
なら、次は踏み込んでみよう。
基礎を積み重ねていった先にあるものを体感する。
今の自分の足りない部分を見つけ、完成品のイメージを補強し、明日以降の基礎訓練で補っていく。
H.T.の補助付きで行われる魔法戦闘訓練。
『大魔法使いごっこ』というご褒美の飴がそのままモチベーション上げとイメージ訓練になるのだから、無駄が無い。
「今日もまた、私は『身体強化』・『強度強化』・『地形操作』の3つの魔法しか使いません。
さぁ、始めましょう。」
H.T.の補助付きのクソガキとシェリー君が対峙する。
昨日はその台詞を挑発と受け取って激昂したが、今のクソガキにそれはない。
H.T.という下駄を履いた状態でありながら、3つの魔法だけで一方的に圧倒的に絶対的な大差をつけられ負けたばかり。
昨日のことを忘れるほど愚かではなかったということだ。
構えている。警戒している。慎重だ。
だが無意味だ。
構えているが、警戒しているが、何に対してそれを行うかを理解していない。
自分は臨戦態勢だとアピールしているだけに過ぎない。『地形操作』を使える相手が目の前にいるんだ。
自分は相手の凶器の上に立っていると言い換えても良い。
呆けて突っ立っていることがどれだけ危ないことか。
せめて拙くても攻撃するか、狙いを付けさせないように距離を取るようにキビキビ動け。
「来ないなら、私から行きます。」
その言葉で一層肩に力が入る。格上相手に先手を取られるな、主導権を握らせるな。
『身体強化』
単一。普段と違い手加減したそれは非常に遅く、動線も二次元的で至極甘い動き。
だが、昨日より気づかない程少しだけ、速い。
『火球』
昨日よりも小さい火の球。人の頭と変わらない熱の塊がこちらにやってくる。
当然、威力は昨日よりも低い。だが、速い。
魔法を準備してから発動までの時間が短縮された。
それは扱う総エネルギー量が減って扱いやすくなったので当然だ。だが、それに気付いて自発的に絞ったことは進歩だ。
『自分が使いこなせる量を知る。』それは重要な要因だ。
「『火球』は大きいほど威力は上がります。相手としても無視できないので回避か防御の選択を迫られます。
けれど発動の隙は大きくなり、自分の視覚を制限することにも繋がるのでとても良い手だと思います。」
当然当たらない。
だが避ける間に生成された次弾が発射される。
「同じ魔法であれば一斉射撃以外に時間差や任意発動も可能です。今度練習してみましょう。」
次弾も躱す。そう簡単に当たるほど弱くない。それでは生きていけなかったから。
「さぁ、使うのは火だけですか?
他にも種類はあります。存分に使ってください。」
クソガキの顔が真っ赤になった。
遅れて申し訳ありません。




