粘土を捏ねて魔法を学ぼう
『空気・火・電気>水>土>身体強化・強度強化』
それぞれの魔法の修得難易度のランキングだ。大概の教科書では上記のように記されている。
そして、その理由も記されている。
難易度が高いものは触れられないものであることが多く、また形を持たない・見えないものが多い。
触れられず、形を持たない、その上見えないこともある。
故に触覚という情報が欠け、視覚という情報も欠いた状態で魔法をイメージしなくてはならない。
ただでさえ最高難易度のものは形が無いというのに、それを自分の望む形に変えるのは、難易度が高い。
「対して土はありふれたもので、しかも固体です。イメージするものとしては『粘土』が簡単とされています。」
「あぁ…」
「なるほど!」
2人の表情が腑に落ちたというものに変わる。
シェリー君の作った壁。
粘土を捏ねてそれを立てれば完成。
カタパルト。
粘土を足の形に押し付け、それを前に動かす。
槍。
棒状の粘土の一端だけ手で転がして尖らせる。
正に粘土細工。子どもの手でもできるそれを、スケールアップさせて魔法で行う。それだけのことだ。
「これからは、最初に『地形操作』の座学と基礎訓練。
お昼過ぎからは今日のように実践形式で学んでもらいます。
夜すぐに眠れる程度には大変なので、覚悟をしてくださいね。」
「……」
「教えて欲しいのは、かっこいい魔法、でしたね?
以前、とある海辺の村が津波に襲われ、それを防いだという方がいらっしゃいました。
防いだ方法というのは、『地面を隆起させて周辺一帯の地面を堤防に作り変えて防いだ』というものでした。
目撃者の方が堤防がまるで『龍の群れの様であった』と口にしたことから、今ではそこは『龍の巣堤』と呼ばれています。
使い手次第では龍と見紛う程の強力なものが使えるようになります。」
そう言いながら地面を隆起させ、形を整えていく。
牙、髭、鱗、角、流線型の体……小さな龍が現れる。
「まぁ。」
オドメイドが驚く。
「勿論、壁や堤防を作るだけが『地形操作』ではありません。農耕においてもこの魔法は非常に重要な魔法となっています。
作物だけでなく、花を咲かせる上でも、この魔法は非常に役立ちますよ。」
オドメイドが目を輝かせる。それを見たクソガキが非常に、非常に遺憾だとばかりに、どころか一族の仇とばかりにこちらに無念と憎悪の視線を送る。
「基礎的な魔法が学べる上に実用性も高い。
勿論、ここから更に様々な魔法を教えるので、存分に学んでください。」
何も言えずに睨みつける。大敵を見るように、それがこの世の理不尽だとでも言うように。
こんな可愛らしい理を真理だと思っているその無知な幸福が、嗚呼嘆かわしい。
世界は広いことを、自分が如何にちっぽけなクソガキかを、これから存分に学ぶといい。
世界には君の理解の及ばない、理外の怪物が居る。
『気流操作』は本来高難易度低燃費なのですが、知っての通りシェリー君は乱発しています。
理由は、教授が空気や気体に関するレクチャーをしてくれたお陰で難易度の高さを踏み倒せたからです。
結果的に低燃費高汎用性不可視の魔法という立ち位置に落ち着きました。




