一転攻勢不変の家庭教師
さて、ここからは……
「守ってばかりでは消耗するだけ……ここからは一転攻勢と参ります。」
炎が途切れたのを確認してはっきりと口にする。
「私が今使えるのは『地形操作』、そして『身体強化』と『強度強化』。火と土で魔法の撃ち合いをするのは不利。であれば、私が次に選ぶ手は一つ……」
「………近距離!」
「正解です。」
焼かれて表面が乾いた壁が破裂する。その破片は泥を焼いたものとはいえ、同じ陶器とは違い、あっという間に砕ける。
殺傷力は無い。だがすぐに砕けるからこそ、それらは一面を覆う土埃となり、視覚を潰す。
「うえ……」
見た目はクソガキだがお坊ちゃん。顔を汚すのは嫌だとばかりにしっかりと顔を袖で覆って飛んで来る土埃を防ぐ。
「うぇ…………」
「お行儀の良さはこの場では致命的ですよ。」
「!」
土埃が晴れる頃には、シェリー君とクソガキの距離は、互いに互いの心臓を一刺しできる距離にまで縮まっていた。
「火の魔法は便利で非常に強力です。ただの人は根本的に火を克服できていないから当然です。
しかし、いいえ、だからこそこの魔法には欠点が多くあります。」
身体強化を使った組手を始める。真正面から顔を拳で狙う。それをなんとか強度強化で防いだが、右腕が痺れる。
「先ず、火の魔法は、『使えるようになるまで最も時間がかかる基礎的な魔法』とも言われています。
その理由は、『そもそも人が火に触れられない』ということが挙げられます。
水や空気、土といったものは触れられるので、その分理解が深まりやすく、魔法発動時のイメージに繋がりやすい。だから魔法を習うときにはそれと触れ合うことが有効とされています。
しかし、火はそもそも触れられず、イメージがし辛い。
結果的に発動のイメージが湧き辛く行使が困難となる。そう考えられています。」
顔。今度は横から平手打ち。無事な左腕で防ぐが耐え切れずによろめく。
ふらふらと距離を取ろうとする。だが、そう簡単に離れさせない。
向こうが一歩下がればこちらが一歩詰める。距離は相変わらず相手の頸動脈を爪で切れる程度の距離だ。
「固体でも、液体でも、気体でもない。それが火。
そんなものに厳密な形を与え、留めるというのは魔力の操作における高等技術です。
特に魔力が多ければ、その難易度は私の想像を絶するものとなります。」
反罪術式を行使するよりは容易だがね。
「塊にして投げつける、ただ生み出した火を流す……補助込みであれば行使は簡単でしょう。
しかし、今のあなたには、この距離で使える火の魔法はありません。
使えたとしても、自分も無事では済みません。」
距離は至近距離、殴り合いの間合い。
先刻の、人をまるごと焼ける火や、絶え間無く垂れ流される火は、この距離で使えば自分が最初に焼ける。
魔法を習う上で一番多い怪我は何か、解るかね?
火傷だ。




