かっこいい魔法
「…………坊、おかわりはいるか?」
「いる。」
ホットケーキが回転しながら宙を舞う。
先程から何度も何度もホットケーキが宙を舞う。だがどれもこれも皿から外れていない。
どのホットケーキの円も崩れず、焼きムラや焦げや生焼けも無い。
「……ありがとう。」
シェリー君を前にした品性を空の彼方に投げ飛ばした様な振る舞いと言動、それに能力。それは完全にただのクソガキ。
だが腐っても貴族の子息。テーブルマナーだけ見れば良家のお坊ちゃまだ。
「昨日の『魔法』は効いたようだね。」
「さぁ……どうでしょうか?今のところ、食事に来てくれたというだけで、私にとっては未だ確証を得るには、足りない気がします……。
教授、とてもおいしいです。」
シェリー君はコックから贈られた心尽くしの御礼を存分に楽しんでいた。
最初は作り立てのバターだけで
次はシロップもたっぷりかけて
はちみつをたっぷりかけて
その次はフルーツと
クリームも添えて
朝ごはんにホットケーキを食べられるという背徳に目を輝かせて高揚する子どもの様な、いつもの年相応ではない振る舞いとは違う、実に子どもらしい、肩の力が抜けた表情を見せていた。
昨日までと違って、少なくともここに来て食べているというだけで大きな進展……それに気付かないというのは、中々な不注意。だが、このホットケーキタイムにそれを言うのは無粋というものだ。
それに、どちらにしろ後程結果は解る。
さて、こんな風に呑気に何枚もホットケーキをおかわりしている家庭教師の様を見て家の主達は何をか言わん。
「ホットケーキを食べるのは、久々な気がするけれど、あぁ、美味しいな。
こちらも、もう1枚頂けるかな?」
「………そうね、たまにはこういう食事も、楽しくて良いものです。
私も、もう1枚だけ、いただこうかしら?」
黙々と、淡々と、しかし既に2枚目を終えていた。
文句を言うために使う口は無かった。
さて、皆の食べる様を見たコックはと言えば……
「勿論、喜んで。
おかわりはまだまだたくさんあるから、食べたい人は遠慮無く言って下さい。」
動きを一切乱さず、しかし表情だけはほころんでいた。
寸胴の中身は着実に減っていた。
こうして、いつもより長めの、幸せな食事が終わった。
「それでは、本日も魔法についての授業を始めます。よろしくお願いします。」
「……よろしくおねがいシマス。」
「よろしくお願いします。モリアーティー先生。」
お腹も栄養も十分。シェリー君とクソガキは寝不足だが、今日も授業が始まる。
クソガキが手を挙げた。
「モンテルさん、なんでしょう?」
挙手をして、その手を降ろした。相反する2つの感情がクソガキの中で入り混じっていた。
「かっこいい魔法を、使いたい。」
幼稚で端的なオーダーが投げ付けられる。
次話からは悪役令嬢の大々先輩のお話をオマージュしたものとなります。
オマージュ、といっても、お嬢様の得意技を見て新たな運用方法を思いついたという類のものなので、ご安心ください。しっかり怒られない範囲でやります。
ちなみに、最近漫画を全巻買いました。




