レッツ不法侵入(ではない)
「魔法世界の警備システムは一通り調べてある。構築もした。無効化もした。
結論として私の知識にあるものより厄介だが、どんなセキュリティーも共通して……壊してしまえば意味なんて無い!」
風穴から厩に入る。応急処置で塞いであった。侵入者を感知して音の鳴る術式も仕掛けてあった。
「その程度で足止めができるほど柔な教え方はしていない。」
「私は一体何を教わったのでしょうか……?」
頭を抱えているシェリー君に微笑みかける。
「ズバリ泥棒の手口だ。」
堂々宣言、である。
「せめて弁解や言い訳をして欲しかったです!」
「何を言う。超一流の泥棒の手口を知っておけばそこらのこそ泥や盗賊の類いは考えるまでもなく対応出来る。
優れた観察・洞察力の持ち主でなくとも『既知』であれば優れた能力の持ち主に匹敵することが出来る。
君は知っているだろう?
こそ泥や賊が何をするか、どう動くか、そして、何をされたら一番嫌がるかを。
そして、その既知がどれほど有意義で役立つものかを。」
「………………」
返答は沈黙だった。
ここに来るまでの道中、招かれざる客達を主人と見誤らなかったこと、今回の不法侵入者の不意討ち、そして今。
全ての行動の根拠は私が教えた『悪人ならこんな時どうするか?』という知識だ。
「君はそれを使って人のものを盗んだわけではない。
なら、知っていることの何が悪い?
学ぶことの何かが悪いとでも?
知識に善悪はない。そこにあるのは知という善でも悪でもない真理だけだ。
善悪があるのは使う人間だけだ。
大馬を暴れさせた原因も、扱いを間違えなければ薬だったのだ。
不法侵入した連中とて、コックや猟師や大道芸人でもやっていればこうはならなかった。
もっとも、それが許される環境にあったかどうかは解らんがね。」
許されない環境であったとて……だ。
連中はシェリー君に危害を加えようとした。
理由は、目的は、手段は、結果は何であれ明確に牙を剥いた。
なら相手の背景なんて至極どうでもいい。
相手の状況、情状酌量について考えるのは裁判官の仕事であって、私の仕事ではない。
それに、本件は警備官の耳には届かない。
『コックが命を奪う相手は唯一食材だけだ。こいつらは筋張っててマズそうなんでな。適当にお灸を据えた後で送り返す。
あぁ、心配しないでいい。ラッピングのリボンは用意してある。』
『お灸を据えて送り返す』ときた。
わざわざ送り返してすることは……ここは何も言うまい。
ただ、一つ言えるのは貴族社会では真っ当な遵法精神が死に絶えているということがこれで解った。
実に、実に素晴らしいではないか。
「夜も深い、時間もない、早く調べに行こう。泥棒の手口を使い、悪党の知識を用い、悪にまつわる知恵の力を以て悪とは無縁の君の望みを叶えようではないか。」
「はい。」
昨日今日と誠に申し訳ありませんでした。
そして、ライトアニメ展、無事終了となりました。来てくださった皆様、ありがとうございました。




