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並んだ肩は大小

 『毒』

 人を害する道具として、ありきたりでありふれたものの一つ。

 その強みは力が要らないこと、種類が豊富で効果が様々なこと、そして、服毒方法が多様であることが挙げられる。

 食べ物に入れる、注射する、粉末を吸入、毒の煙で燻す、気体を吸い込ませる他、触れさせるというのも立派な手段だ。

 毒虫に触ってかぶれる、野生のキノコに触れて手が焼けたように爛れるといった事例は聞いたことがあるかね?

 毒ガスを吸わないように息を止めても目や皮膚に損傷があるという事例は?

 無かったら調べるといい。

 『未知のものに不用意に近付く』ということの愚かさ(危険)について、致命傷を負う前に知ることが出来る。



 「夜明け前に森の木のうろ(・・)の中で他の虫に集られている灰色の虫。

 砂漠のサボテンの中にいる黒い体表に緑の光沢ある鱗を持った頭の尖った蛇。

 湿地に生える花弁の先が割れた赤紫の花、その中でも一部の個体が持つ黒い花粉。

 虫を炎で焙り、飢餓状態の蛇に食べさせる。

 蛇のフンを燃やしてその時の煙を使って花粉を燻す。

 3日の間、煙が絶えないように燻し続けたもの。それを木灰入りの水に入れて一日混ぜる。

 そして完成。

 作り方は合っていますか?」

 「………………」

 沈黙で答える。表情は大正解だと言っている。

 「この毒は経口摂取以外に触れることで皮膚から取り込まれる性質も持ち合わせています。

 症状は発汗、動悸、息切れ、震え、心拍の上昇、紅潮……。

 レイバック様、お心当たりはありますか?」

 「今まで丁度そんな状況だった。」

 「今は、どうでしょう?ご気分は悪いですか?」

 「いいや問題無い。健康的だ、とてもね。」

 「良かったです。ただ、これが終わったら直ぐにお休みください。これくらいの解毒なら簡単に出来ますが、毒素による体の消耗に関しては大掛かりな術式が必要になるので。」

 「いや、十分だ。凄いな。」

 最も効果的な挑発。

 毒の調合は毒を武器や凶器として使う者にとって秘奥中の秘奥。絶対に知られてはならないし、解毒は自分にだけ出来ることが理想形。そんな代物だ。

 それを一見して製法まで見破った挙句、いとも容易く解毒までしてのけた。

 これは宣戦布告、毒使いに対する最大級の侮辱と言っても過言ではない。

 現にほら、見てみるといい。


 不侵者様が青筋立てて震えている。

 「だからどうした?

 配合が分かったからなんだ?解毒が出来るからなんだ?毒の正体がわかったことがそんなに嬉しいか?

 触れられない、切り傷一つで致命傷。それがこの毒だ。

 そして、正体がわかったところでお前達を殺せば何の問題もない!」

 勝手に自問自答して殺意剥き出しで襲い掛かってきた。何がしたい?

 「レイバック様、ご協力をお願いいたします。」

 「こちらから願いたいくらいだ。頼もう。」

 少女とコックは大きさの違う肩を並べた。


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