ハイテクノロジー本棚(20年物)
「お手伝いに参りました。」
部屋に入った第一印象は、『書庫や図書館というにはあまりにも奇妙な空間だ』というものだった。
入口の正面に人が6人座れる大きな机が置かれ、照明があり、それなりの大きさの本棚が壁を潰す形で三方に、そして机の上に小さな直方体の箱があるだけ。部屋そのものも、大した広さとは言えない。
だが、膨大な本が所蔵されていることが解る。
「お手伝い?どういうことでしょう?」
家庭教師の手伝いの申し出に執事が首を傾げる。
「いえ、それがかくかくしかじかで……」
「……なるほど、そういうことでしたか。大変申し訳ありません。それでは、大変申し訳ありませんが、よろしくお願いいたします。」
「……書庫の整理というお話でしたが、これを全てでよろしいのですか?」
「そうですね、これが、全てです。」
そう言って机の上の箱に触れると、応じるように開いた。
箱の中から出てきたのは書籍やフィルムではなく無骨な意匠の眼鏡。
フレームは太く。レンズは厚く。渡されたそれは異様に重い。
レンズ越しの向こうの光景が変わらない、つまり度が入っていない。
「こちらをどうぞ。棚を動かす場合は棚に触れて、本を読む場合は本の背表紙や表面に触れると出てきます。
複数同時に出すことも出来ます。解らないことがあれば私かこれに訊けばわかります。」
「触れると出る?これに訊く?」
促されるまま眼鏡を装着する。
「……これは?」
「魔道具ですよ。」
答えると同時に視界が歪んだ。
目の前に巨大建築の柱の様な本棚が現れ、執事が見えなくなった。
「!」
部屋の容量を明らかに超過した質量。それがいきなり現れた。当然、少しの間だけ驚く。
だが前に一度、これを見たことがある。
「眼鏡のレンズに投影した映像……ですね。驚きです。これを作ったのは歴代の当主のどなたかが作ったのですか?」
視覚には本の柱だけ。だが聴覚は息を呑む音を捉えていた。
「この魔道具の仕組みにすぐお気付きになるとは……流石です。」
「いえ、これとよく似た魔道具を見たことがあったので……しかし、それが作られたのはおそらく最近のこと。
この魔道具が作られたのは少なくとも20年以上前。それだけの年月が離れていながら同様のスペックを発揮しているこの魔道具は素晴らしいと思います。」
「それは……ありがとうございます。」
その表情は抑えられていたが、誇らしいものであった。
「それでは始めましょう。」
目の前の存在しない柱に向かって手を伸ばす。
本棚が目の前に向かってきた。




