手を引かれて一歩目。
「今日はもう、この辺にしておきましょう。」
昼食を挟み、昼過ぎ。未だ夕刻ですらない。そして、2人は未だ分銅を持ち上げられていない。
「……」
「せんせい、ありがとうございます。」
だが2人の方が限界だった。
汗を流し、机に突っ伏し、呼吸するのも億劫といった様子。
「今日一番大事なことを最後にお教えいたします。
魔力を使い過ぎると、今のような状態になります。その状態は『魔力の枯渇』や『魔力不足』と呼び、今回は心配ありませんが、生命の危機につながる場合もあります。
兆しがあれば、直ちに魔法の使用は止めてください。
今回は感覚を覚えてもらうために敢えてその状態まで放置しましたが、以降は自分で不調や予兆を感じたら直ぐに止まって、迷わず私に言ってください。
気のせいでも構いません。万一の可能性でも言ってください。それで勘違いなら私は良かったと安堵するだけで済みますから。」
「………」
「 承知し まし た」
正に満身創痍。典型的な魔力不足だ。
ちなみに、シェリー君の魔力量は非常に少ないが、今そんなことにはなっていない。
省エネルギーで如何に最大のパフォーマンスを発揮できるかという命題に毎度向き合っているお陰だ。
お陰で目の前の満身創痍な2人以上に魔力を使っておきながらも、未だ魔法を使って暴漢数人を制圧出来るだけの余力がある。
「数分も休めば一旦落ち着くでしょう。
私はレイバック様に飲み物をお願いしてくるので、そこで待っていてください。」
余裕綽々、格の違いを見せながらシェリー君はその場を後にした。
「先生はまだまだ先にいらっしゃいますね。」
「………」
「モンテル様、起きているのは承知していますよ……まさか、本当に体調を崩されたのですか⁉」
「そんなことない、大丈夫だよ!」
跳ね起きる。しかし、それは頭の中のイメージだけ。今のモンテルにそんなことをする体力はもう残っていない。
重労働とばかりに頭を上げる。
「先生、モンテル様のことをしっかり見ておられましたね。」
「…………」
「私は、モンテル様が楽しそうに勉強されているのを見て、嬉しかったです。」
「楽しそうなんて……」
「花のお世話をしている時と同じくらい、今日のモンテル様の表情は輝いておりました。」
「…………」
念のため言っておくと、モンテルは花の世話が好きな訳ではない。
上達が非常に早い。それが私の感想です。
あの紐の練習は私が教授に教わったものを参考にして作りました。良く出来ていると思います。
外部干渉による魔力の知覚についても、上手く出来ました。
それでも、とても上達が早いです。
私が初めて魔力というものに気付いた時は、お2人とは似ても似つかぬ醜態を曝していましたから……。
いいえ、比べることもおこがましいですね。
あの2人の輝きをもっと。
あの2人が楽しいと思えますように。
「ん、どうかしたのか?」
「あぁレイバック様、丁度良かった。
大変申し訳ありませんが、甘い飲み物などを今から用意していただくことは出来ますか?」
「1人分……いや、3人分必要か。着替えて直ぐ用意する、部屋で待っていてほしい。」
そう言って黒点が付着した白いコックの戦闘服を脱いで、レイバック様は厨房へと向かっていきました。




