最悪な過去はせめて今の最高の礎になれ
シェリー=モリアーティーが魔力や魔法の行使に悪戦苦闘したことはない。
学習の様子を最初から見たわけではないが、今、シェリー君が同年代の貴族令嬢と比較して明確に劣っているのは魔力の量のみ。
それ以外は平均か、頭1つ抜けている。
魔力の知覚、魔法の行使に関しては得に優秀だ。優秀過ぎる。
勉強のスタートが遅いにもかかわらずそこまで到達した理由を『勉学に励んだから』だけで片付けるには不自然なくらいに、ね。
「よく、お気付きになりましたね。」
嫌な記憶が込み上げた人間の、『過去だからもうどうしようもない』という諦観が見て取れる。
「君に魔法を教えるためにありとあらゆる研鑽を積んだからね。
基礎理論から専門的な理論、実験から実践、歴史についても学んだ。
表に出ている範囲で、非人道的なあれこれが成されたということも知った。
君の過去の発言、置かれた場所を考えれば、異様な能力に辿り着く。」
『外理解の法則』
魔法以外の事柄で得た知識や経験が魔法の理解や効率化に繋がるという考え方。
火を知る者はより火の魔法を知る。
水を知る者はより水の魔法を知る。
それだけのことだ。
だからこの法則の提唱者はこの法則に悪意を見出だせなかった。
ある魔法教育者が警備官に捕まり、それ以降死ぬまで牢獄住まいになった。
その理由は、あちこちで手に入れた年端も行かぬ子どもに魔法で拷問を行ったから。というもの。
死なない程度に魔法を撃ち込まれた子ども達は保護された時、皆瀕死だった。
捕まったのは魔法教育者だった。
捕まって警備官から非道の理由を問われると、こう言った。
「子どもの頃から魔法の痛みと力と美しさを身体で理解すれば、その上でしっかり魔法を基礎から学べば、その子は立派な魔法使いになれるのです。
私は私以上の魔法使いを生む瞬間を見たかった。」
教育者として優秀であった。
研究者としても優秀であった。
だが社会的生き物として無能だった。何せ捕まった原因が子どもの脱走で、しかも子どもを監禁していた部屋のカギは、家の備え付けのものだけだった。
挙句に「早く解放して続きをさせてほしい。今度はもっと強く負荷をかけて試そう。」と言ったから、あっという間に男の最期の場所が決まった。
その後、幾人かの学者がこの件を取り上げて、不自然なまでに躍起になって『この手法が誤りである』という結論を出していた。
その論文自体には何ら問題は無かったが、事件の被害者と同姓同名の人物が複数名、20年後に魔法使いとして大成した。
一定の効果はあったと見るべきだ。だが一定の効果、一部の人間にだけ効果があるそれのために何人もの人間を磨り潰しかねないから誤りとして、模倣されない様に封印した。
憶測?
いいや、そう片付けるには実例のデータがあまりにも揃っているのだ。
それに、憶測かどうかはこの際どうでもいい。
幼少期に魔法教育を受けていなかった。
先天的な魔法の才覚も無い。
しかし魔法や魔力の扱いに関しては異常な能力を持っている。
そして、この世界である意味最もポピュラーな凶器、魔法での攻撃を悪意と共に受け続けてきた。
そんなシェリー君にとって、それはどうでも良いことなのだ。
不幸中の幸い?連中のお陰?
何バカなことを。
不幸に幸いを見出さなければやっていられないだけだ。
連中が何もしなければシェリー君は私無しでも大成した。
不愉快な記憶とそれに伴う現状の躊躇。それで十分。十分ロクでもない。
評価いただきました。ありがとうございます。そして誤字脱字報告感謝いたします。
足し算ミスは拙いです。教授的に非常に拙いです。
ところで、いつかシェリー君の救済IF、作った方が良いですかね?
『あら、ミス=モリアーティー、タイが曲がっていましてよ。』
『ありがとうございます、ミス=コション。けれど、貴女も口元にクッキーが。』
『あら、私ったら………うっかり。』
『ミス=モリアーティー、ミス=コション、何をしているのですか?授業が始まりますよ。』
よし止めましょう。焦土より不毛過ぎました。忘れて下さい。




