心を貫く隠し弾
「え?」
「特に後遺症や不便も無いので、明日の授業は朝から行います。遅れないようにして下さいね。」
「なんで?」
「それは、朝から勉強した方が規則正しい生活を促せますし、勉強する時間が多く取れますし、遊ぶ時間も確保出来ます。いいことずくめ、でしょう?」
「そういうことじゃない。なんで家庭教師辞めないんだよ。あんな風にされて、お前死にかけたんだぞ!おかしいだろ!普通ここまでやられたら、ボクにギャーギャー言って逃げてくぞ。今までの家庭教師はそうだったぞ!」
喚くクソガキ。それを一刀両断する。
「今までの家庭教師の方々と私は全く違いますからね。
これしきの悪戯、可愛いものではありませんか。」
クソガキの表情に一筋、凍り付く恐怖が走った。
「『これしきの悪戯?』これだけのことやられて、何言ってるんだお前?」
血の気が引いて、顔が引き攣る。
あぁ、こればかりはクソガキ、君に同意しよう。
シェリー君の屈託の無い笑顔が言動とあまりにも食い違っている。死にかけ、気絶までしていた少女が犯人を前に笑顔で許した。
その上で明日のことまで話して、にこやかに、まるで何事も無かったかのように振る舞った。
それは『何事も無かったかのように振舞っている』のではない。
実際シェリー君にとっては許せるこれしきの悪戯なのだ。
今まで体験したあれやこれやに比べれば、明確ではない害意や殺意の皆無な行為は非常に可愛いものだ。
だから、笑って許せる。
「自分の行いを真剣に考えることは重要です。『これだけのこと』をやったと思うのなら、その後悔を胸に、次に活かしてください。」
こんなもの、物の数に入らないのだから。
「さぁ、明日からは忙しくなります。よく眠り、備えてください。
では、おやすみなさい。」
屈託が無い。全く無い。邪悪な企みは、そこには無い。
「待てよ!謝った!謝ったけど!それで終わりだ!お前を家庭教師なんて認めないぞ!」
だからこそ、再度拒否する選択肢がクソガキの中に生まれた。
まだやれると、拒絶の可能性を見出した。
だが、二度目の拒否の意思は容易に叩き壊せる。
そして、壊したそれを修復するのは容易ではない。
「認めずとも構いません。ただ、私は家庭教師として貴方に知識を与えます。
それは、きっと貴方の力に変わるでしょう。
世を渡る力に、考える力に、そして、戦う力に。」
笑顔で追い詰める。逃げ場は無い。
「そんな、いらない!いらない!なんでお前なんかからそんなものを!」
至って真面目に、力強く、全力で拒否する。
だからこそ、あらかじめ手に入れてあった隠し弾を放つ。
「私なら、貴方がとても慕っているカテナさんの力になる方法を教えてあげられますよ。」
恐怖に染まっていたクソガキの顔が急に真っ赤になった。
それは怒りでなく、羞恥の感情で、だ。
ブックマーク頂きました、ありがとうございます。
さて、ここからが面白いところです。どうか明日をお待ち下さい。




