また明日
それは、シェリー君がハンバーグを食べる、少し前のことだ。
シェリー=モリアーティーは、人生初の、前向きで明るく楽しい脅迫を行った。
厳密に言えば、自ら進んでやる初めての脅迫、だがね。
知っての通り、シェリー君は華奢で悪意が無くて鈴のような声の持ち主、おまけに当人の性格的に恫喝や暴力的言動には到底向かない。
が、コツさえ知っていれば脅迫はうまくいく。簡単にできる。
そう、例えばこんな風に。
「少し、眠ってしまったようですね。」
目覚めての第一声がそれだった。
「おはよう。とはいえ、もう夜だ。今、君はどんな状態かね?」
「……そうですね。非常に、奇妙な感覚です。体が重いような、軽いような、痛いような、そうでもないような……一つ言えるのは、後遺症は無く、明日から問題無く家庭教師は再開できるということです。」
起き上がり、ゆっくりとストレッチをしながら答える。
言いたいことはあるが、止めてもどうにもならないし、止まったら止まったで別の事で消耗しかねない。
「そうかね……にしても、随分と冷静だね。君のことだから飛び起きてすぐに2人の安否を訊ねると思っていた。」
「それに関しては、皆さんの話し声が聞こえていましたので……。
身体が動かずに聞くだけでしたが、お2人と彼・彼女らが無事なようで、良かったです。」
「なるほど、そういうことかね。
では、今日のことを振り返る……その前に来客の対応をするといい。」
「そうですね。そうすることにいたします。なにせ……」
ドアに目を向ける。
音を立てないように心掛けているのは解るが、だからといって気付かないわけではない。
「こんな時間に家庭教師の元を訪ねるような、熱心な生徒を待たせるのは家庭教師失格ですね。」
見本とばかりに相手に気取らせず扉に近付き、ぶつからない様に開ける。
「こんばんは、モンテル君。私に何か、御用ですか?
ちなみに、私は反省文を課題にする気はありませんよ。」
目覚めたばかりだが何事も無かったかのように余裕を見せる。それに対してクソガキは眠っているから帰ろうという先送りが出来なくなって困ったような、シェリー君が見せた無事な状態を信じて安堵したような、最終的にどう反応すべきか、どう話を切り出すべきか、と迷っていた。
「………………今日は、ごめんなさい。」
苦々しい顔で、絞り粕から最後の一滴を絞り出すような、項垂れているのか頭を下げているのか分からない姿勢での謝罪が聞こえた。
「はい、謝罪を受け入れましょう。
けれど、次からは気を付けて下さい。今回の場合は違いますが、不用意な行動が時に人を傷つけることがありますから。」
それまでのものだって、防いだから未遂で済んでいるが、あれも立派に不用意な行動・問題行動だと思うのだがね。
「はい………………それじゃさようなら。」
後ろに退くように、もう全部終わったんだとばかりに逃げようとしている。
だが、そうはいかない。脅迫はここからだ。
「はい、今日はさようなら。明日も授業をしますので、遅れないようにして下さいね。」
その言葉でクソガキの体が硬直して、止まった。
「え?」
タイトルで自滅しました。調和、量子、西風に乗って……




