火の魔法が得意だから水は使えない
「くそ、くそ、クソ!」
『地団駄を踏む』という表現がまさに相応しい。
『今日のところは午前中だけにして、午後は自由時間としましょう、それでは。』
という言葉を残して家庭教師はその場を笑顔で後にした。
モンテル=ゴードンは徹底的に虚仮にされたと感じた。
屈辱的だった。
怒りが満ち満ちていた。
絶対にあの家庭教師面した奴に一泡吹かせてやると決意した。
「モンテル様、お待たせいたしました。
昼食の用意が出来ましたよ。」
カテナがやって来た。
来た方には汚れないようにとシートが敷かれ、その上に折り畳みの机と椅子が載っていた。
「わかった…………」
唇を尖らせながら言われるままに、後に続いた。
「バカにしやがって!」
冷たいジュースを飲んで、一言。そしてすぐにサンドイッチを貪る様に食べ始めた。
「モンテル様、落ち着いてお召し上がりください。でないと、レイバック様に怒られますよ。」
メイドに窘められて、口の動きが少しだけ鈍った。
「……解った。」
「私が準備をしている間、一体何があったのですか?」
自分の主人が落ち着きを取り戻したのを見て、傾聴の姿勢を見せた。
「最初、あの家庭教師から隠れるために、あの森山に行ったんだ。
見つかる様なバカな事はしてない。足跡だって消したし、木に登って隠れて…………カテナ?」
「そんなことを、なさっていたのですね。」
傾聴の姿勢で最後まで聞こうと思っていた。だが昨日の反省が嘘だったとでも言う様なその対応は看過出来なかった。
「ち、違うカテナ!かくれんぼだったんだ!昨日の内にそう言われていたんだ!だから朝からお願いしておいたんだ。
なんなら、後で確認してみるといい!」
口から出まかせ。だが、幸運な事に家庭教師は元々かくれんぼのつもりだったお陰でこの後怒られる事はなかった。
「でも、そんな風に子ども扱いされる程ガキじゃないと思って、ムキになって、絶対に見つからない場所に隠れて、崖から飛び降りて、それなのに平気で追い駆けて来て、邪魔してみろって言うから魔法で反撃したのにバカにされて、怒られて……」
「モンテル様、使ったのはもしかして、火の魔法ですか?」
「そうだよ、カッコいいから練習してたんだ。」
「先生のお怒りの理由は解りますか?」
「知らない!知るもんか!ボクはあの家庭教師じゃない!」
「あのような木々の密集する場所で火を燃やせばどうなるか、お解りですよね?」
「……燃える。」
「森が燃えたとして、モンテル様は水の魔法で責任を持ってその火を消せますか?」
「カテナは知ってるだろ?僕は火の魔法が得意なんだ。だから水は上手く使えないんだよ。」
そう言って、笑った。
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