かくれんぼ、得意なんです。
「追手から逃げる際は、『追っ手から逃げる』ことだけに専念するのは悪手です。
追跡者が複数いた場合、逃走経路を塞がれる事も考えられますからね。なので逃走と同時に妨害や撹乱を考えることが必要です。
なので、今の様に地形を把握して、追手が『これなら追えるだろう。』と思って追跡するように誘導し、罠にかける動きは見事でしたよ。
けれど、魔法に関しては諸々改善の余地がありますね。
今行っているそれは身体強化……と意識して行っている訳ではなさそうです。
魔力を何となく感じて、それを抽象的なイメージで行使している、という感覚でしょうか?」
飛び降りている最中、隣から声が聞こえた。真横に、あの家庭教師が、いた。
そうこうしている内に下の森の木がもうそこまで来ていた。
「クソ!」
イライラする。
当然のようにこちらは着地成功。
そして向こうも階段降りるみたいに崖下に降りて来た……一発で成功した。ここまで出来るようになるのにこっちは100回以上飛び降りたのに……
「ふざけんな!」
簡単にやられたのがムカついた。
『`人‘炎』
痛い目見せてやる。
魔力の総量に関してはシェリー君より強大。
だが、変換効率があまりにもお粗末過ぎて、到底魔法とは呼べない。
火の粉が混じったそよ風もどきがシェリー君に向けられた。
「クソガキが……」
もどきとはいえ、これは害意・悪意ある行為だ。
身の程を弁えさせるか? 「教授、家庭教師を任されたのは私です。
私の教え子に手出しはしないように。
くれぐれも無用で願います。」
牽制された。故に、笑顔で返そう。
「君が危機的状況に陥らない事を前提として、善処しよう。」
「これくらいは、危機的状況とは呼びませんよ。ただし……」
『気流操作』
木々に引火しない様に道を作り、火の粉を空へ、地面へと、散らす。
空中に舞った火の粉は自分を灯していた力の影響から外れて風と散る。
土の地面に降りかかった火の粉はその内にある熱を奪われ、消えていく。
「いくら未熟であっても、魔法を人に向けるというのは、おふざけや遊びでは済みませんよ。」
火の粉がシェリー君を避けるように、消えていく。
そして、『見本』を見せる。
『火炎』
クソガキ目掛けて緋色の弾丸が飛ぶ。
効率を重視。僅かな魔力で、無駄無く、致命的に、臓物を焼く殺意の緋色。
喉や鼻から入り込み、気管を焼き、命を奪うそれがクソガキの顔目掛けて
目の前でその熱の9割を音と光に変えて爆ぜた。
喰らったクソガキは腰を抜かし、暫くは茫然自失状態だったが、すぐに自分の無事に気が付き、そして『信じられない』という顔をした。
「なんだよ…………なんなんだよ、お前はなんだよ!」
「私の名前はシェリー=モリアーティー。
アールブルー学園の生徒で、今は貴方の家庭教師です。」




