シェフ、家庭教師、そしてメイドの朝
味見役として、少しシェフと話し、朝食が出来上がって、バスケットにサンドイッチと瓶を2本詰め終えた頃、オドメイドがやって来た。
「レイバックさん、おはようございます。
あぁ、モリアーティー先生も……モリーさんもいらっしゃったのですね、おはようございます。」
「あぁ、今日も精が出るな。」
「おはようございます、カテナさん……」
不自然な動きでお辞儀をするオドメイド。両手の平をこちらに見せないようにする動きだった。
それに気付いたシェリー君が注意深く観察する。
衣服に汚れは無い。が、今まで何処にいたかは土と草の匂い、髪に付着していた黄色の粉末で解った。
「モリーさん、朝食前のお茶の準備が出来ております。
旦那様と奥様もじきに来ると思うので、良ければ……」
「解りました。」
「ではご案内するので……」
「昨日と同じ場所なら問題ありません。
覚えた道の確認がてら一人で行かせてください。
では、レイバック様。味見役、楽しかったです。
それでは。」
オドメイドの言葉を遮り、コックに別れを告げるとシェリー君はオドメイドをすり抜け、その場を後にした。
廊下を曲がって部外者が消えた後、メイドとコックは仕事を再開した。
「どうしたんだカテナ?」
「あの……モンテル様からいつものお願いをされまして……」
「まったく……仕方の無い坊だ。
待ってろ、そんなことだろうと準備はしてある。」
そう言って用意してあったバスケットを手渡す。
「いつもどおり、それで5時間は保つ。終わったらその辺にでも置いといてくれ。」
「ありがとうございます。いつも申し訳ございません。」
オドオドペコペコするメイドを前に、コックは呆れたような、そうでもないような顔を浮かべる。
「メイドや家庭教師ってのは、難儀だな……」
廊下の向こうを見て、そう呟いた。
廊下の先。オドメイドとコックの視線を切って、その場に止まった。
「カテナさんの手。
あの道の花が原因、ですね。」
「傷だらけの指先を隠すため……という訳だが……にしては立派に咲いていた。
シェリー君、君は、あのクソガキの両親、あるいは執事に訊くことはあるかね?」
「はい、今出来ました。
では、行きましょう。3人の食事へ。」
迷いのない足取りで邸宅を歩く。
「家庭教師は難儀だと仰っていましたが、教授はどう思われますか?」
「私かね?いや、私は教授であって……ッ久々の痛みだな。
私には家庭教師をした覚えはない。
教職なのかも確定は出来ない。だから難儀かどうかを断言する余地はない。」
「そうですか。」
「だが、一つ解ることがある。」
「それは?」
「シェリー君が今、非常に楽しそうな顔をしている。ということさ。
未知で前途多難を匂わせるこの状況で笑っているよ。」
「そう、ですか。気が付きませんでした。」
少し驚いた表情をした。
しかし、少し上がった口角は、そのままだった。




