とても素敵な晩餐
先程の屈強なシェフは『美味いスープの作り方は知っている』という話だったが、それは事実だった。
こちらが長旅であると考えて細かく複数の野菜を均等に刻み、柔らかく崩れない様に煮て、幾つかの滋養強壮のスパイスを効かせて仕上げているそれは『食事』というよりは『食べる薬』に近い。そして、このシェフの最も評価すべき点は……
「おいしい……」
目が驚愕と感動で開かれる。耽美の吐息が漏れる。味蕾が痺れて脳に刺激的な電流が走る。
「これは……ウチのシェフの腕はとびきりだが、これはいつも以上の味だ。凄い。」
食べ慣れている当主まで驚きの表情と声を上げている。
「…………そうですね。確かに、張り切っているようですわね。」
「………………。」
家庭教師のシェリー=モリアーティー。
この家の当主のショーマス=ゴードン。
当主の一人息子、モンテル=ゴードン。
当主の妻であり息子の母であるヒストリオ=ゴードン。
そして、執事のバトラーが主の傍らに立ち、食事が始まった。
オドメイドが食事を運んで来る中、実に良い雰囲気で食事が進む。
「改めて、2人に紹介しよう。
彼女はシェリー=モリアーティー先生。かのアールブルー学園で入学から今まで成績トップを維持して来た非常に優秀な若者だ。」
「…………それは、立派な方ですわね、とても。」
「………………。」
「とんでもありません。教員の皆々様が優秀で、教え方が非常に解りやすかっただけです。
それに、理論は出来ても実技実践となると話は別です。
特に魔法実技は不得手なもので……」
笑って応える。
「その優秀な皆様の内一人はシェリー君に襲い掛かって追い出され、教え方が非常に解りやすいのに目を背けたくなるほど素敵なお頭の持ち主があの場には沢山いるがね。」
笑顔で補足する。シェリー君がこちらに視線を一度向け、また当主へと視線を戻した。
「…………当然ですわね。なんでも出来るなんてこと、有り得ませんから。」
「………………………」
「いいえ、モリアーティー先生の魔法は非常に洗練されたものですよ。
魔力こそ少ないですが、『魔法を教わる』という点において彼女は手本にすべきですよ。」
「…………そうですか。なら存分に手本になさい。」
「………………………………………………」
張り詰めた空気を何とか中和しようとするが、当主の言葉は結果的にシェリー君に向けられる視線をより過激にする。
夫人から向けられる目は疑心そして僅かな侮り。
クソガキから向けられる目は敵意と怒り。
執事は目を瞑り、息を殺していた。
卜゛ーピングコンソ✖なんて入っていませんよ。