表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1566/1748

最初はこれでいい


 他の著名な学者や教育者の方ではなく、自分が呼ばれている段階で想像出来ていました。

 そして、落とし穴の存在でそれは確証に変わりました。

 私は、このままの振る舞いでは対話すら叶わないでしょう。

 隠れている相手を見つける。それだけなら教授から教わっているので問題ではありません。

 けれど、見つけても会話にならなければ、私は何も出来ない……

 であれば、『自分からやって来ざるを得ない状況』を作り出してしまえば良いのです。


 『人間は不合理な生き物だ。それがたとえ罠だと解っていても、安い挑発でも、それが無視出来ない事柄であれば、乗る。

 どれだけ澄ました顔をしていても、どれだけ余裕綽々でも、冷静であっても、それを突く事が出来れば、相手は同じ舞台に勝手に上がってくれる。』


 その時の教授は、とても……はい、とても悪い顔をしていました。

 彼の行いは非常に悪いことだと思います。それは、弁護しません。

 けれど、初対面ですらない彼の行動には一つ、純粋で素敵な点がありました。

 泥を投げつけた時、彼のその『点』の意味に気が付きました。

 彼がもし、私の思う様な人物なら。

 彼がもし、望んでいるものが、力があるのなら。

 手を取り合うことが出来れば、私は彼に渡すことが出来るでしょう。

 彼の望む力を。

 力をより良く振るうための知識を。

 そして知識を夢の実現に結び付ける方法を。

 私は、私の意思で手伝いがしたいと思いました。


 『私が渡した知識と経験は、もう私のものではない。

 今の所有者は君だ。

 好きに使って良いし、好きなだけ渡すと良い。

 知識は使っても渡しても減らないのだから。』


 背中は押して頂きました。

 その言葉の意味に思うところが無い訳ではありませんが、思い切りやることにしました。

 彼は今、私に良いようにしてやられて、腹を立てているでしょう。

 彼の中で私の存在は『いつも通り追い出す数いる家庭教師の一人』から『徹底的に負かして追い出す敵』に変わりました。

 今も彼は泥を落とされながら、その目を私に向けています。

 向けられる感情の名は敵意。

 それは私にとって向けられ慣れた感情。

 けれど、不思議と彼のそれを厭なものだとは思いませんでした。


 最初はこれ(敵意)で良いのです。無関心では対話すら出来ませんから。




 「よく来てくれました、シェリー=モリアーティー君。ようこそ、ゴードン家へ。

 改めて、私はこの家の当主をやっているショーマス=ゴードンです。」

 泥だらけのクソガキを乾かして、あっという間に食事の時間になった。

 「こちらこそ、改めて、アールブルー学園より参りました、シェリー=モリアーティーと申します。

 この度のご助力、誠に有難う御座います。」

 「いやいや、これは助けて貰ったお礼で、家庭教師を引き受けてくれる分だけ私は得をしています。

 君が無事学園を卒業出来る様に私も願っていますよ。」

 「ありがとうございます。」

 シェリー君は笑顔で返す。

 あぁ、まぁまぁ、よくもまぁ御貴族様だ。

 あの巨大馬を早々に見せて、あのクソガキのお守り分だけ得をしていると抜かして、下手に欲の皮の突っ張った守銭奴より性質が悪い。

 シェリー君はお陰で逃げられなくなった。

 「待たせてしまって申し訳ない。さぁ、食事にしよう。」





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ