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人生山あり谷あり落とし穴あり、そして騙し合いあり

 屋敷の前、隠された大きな落とし穴の前でそいつは動かなくなった。


 その場で全く何もしないで、固まった。


 どうしてだ?気付いてるのか?


 だとしたら、なんで諦めないんだ?


 跳んでも到底届きっこない。


 時間が経って、もう動かないガキ見るのに飽きてきた。


 その時だった。


 前を向いて走り出した。しかも真っ直ぐに。

 跳ぶ事も、回り道することもせず、真っ直ぐに、キャスター付きのバッグを引いて、走って行った。

 息を呑んだ。ありえない。なんで落とし穴の上を走ってるんだ?

 落とし穴に見えない様に置いた小石、小枝、砂の模様を踏んで、越えて、そしてそいつは屋敷に辿り着いて、中へと入っていった。

 木から飛び降りて走り出す。

 「なんでだよ。」

 最初の落とし穴に石を投げ付ける。石は地面を叩き割ってその下の泥に突っ込んでいった。

 「なんでだよ……」

 石を投げる。落とし穴が顔を出す。

 「なんでだよ!」

 そして、最後の大穴に大きめの石を力一杯投げる。

 石は地面に叩き付けられて、そこで止まった。

 「なんでだよ‼」

 走って追い掛ける。さっきあいつが走っていったところを追いかけて走る。

 それなのに

 「なんでだよぉ⁉」

 シェリー=モリアーティーは落ちなかった。

 石は落ちなかった。

 けれどショーマス=モンテルは泥の中へと落ちていった。




 生憎とクソガキの罠に引っ掛かる程柔な鍛え方はしていない。

 何より、クソガキは隠れていたつもりでも、こちらはクソガキの存在に気付いていた。

 「見られていますね……」

 「罠に掛かる獲物の姿を見たいというエゴだな。

 結果、そこに罠があると教えていては世話はない。

 もっとも、この程度なら見ずとも何処に何が仕掛けてあるか解る。」

 古典的な落とし穴。他に仕掛けは無い。なんとも芸の無いことだ。嘆かわしい……

 「どうする気かね?罠を叩くか、それとも猟師を叩くか。」

 「なるべく避けて行きます。」

 最初の目印を見つけたシェリー君は、目印が示す穴の縁に沿って歩いていった。

 そこから先は不自然な地面を避けるようにして歩いただけ。

 罠に気付かれると思っていなかったクソガキは、ことごとく踏破される罠とシェリー君を見て息を呑んでいた。


 「これは流石に、跳び越えられませんね……」

 足が止まる。

 不自然な地面が道幅一杯に、帯状に広がっていた。

 なんとしても門前で歓迎を終わらせたいということであれば……

 「ここは一つ、正面から堂々と参りましょうか。」

 魔法を発動する。

 使うのは砂や土や岩に干渉する『地形操作』。

 一見すると何も起こっていない偽物の地面。だがその下では泥沼の上に橋が架かろうとしていた。

 泥の底から土を持ち上げ、乾かしながら偽地面へと近付いていく。

 偽の地面を壊さない様に、隆起させて気付かれないように、細心の注意を払い、慎重に慎重に、徐々に徐々に、確実に見えない橋を伸ばしていく。

 見えない水面下ならぬ地面下で格闘すること数分。

 「完成しました。」

 見かけでは何の変化も起こっていない。だが、その実は違う。

 「行きましょう、真っ直ぐ、そして堂々と!」

 キャスターをゴロゴロと転がして勢い良く落とし穴の上を走る。

 正確には落とし穴を隠すために被せてあった偽地面の下にある急造の橋の上を走っていく。

 道は一本真っ直ぐで、土で出来ているからあっという間に崩れていく。けれどシェリー君の道として、それは役目をしっかり果たした。

 だが、その橋は所詮泥で出来た急造品。泥船ならぬ泥の橋。シェリー君が渡り終えた瞬間から崩壊が始まっていた。

 それでも構造を工夫した結果、石ころ一つくらいを投げつけても耐えられた。だがクソガキ一人の体重を支える事は出来なかった。

 嗚呼残念!『儚い橋』を『人』が渡り終え、それは『夢の橋』となって夢散したのだった。

 泥だらけにして屈辱を与えるどころかシェリー君に見事転がされ、嗤いものに成った訳だ。


 シェリー君らしい行動とは言い難いですね。けれど、意味はあります。

 教授らしい行動でもありませんね、落とし穴に槍が生えていなかったので。

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