本作の老骨を見たら生き残りと思え
チフア=バスカヴィルから持たされたクッキーを手に、先へと進む。
既に太陽は空高く。
だが、当初の予定からは大きく遅れずに済んでいる。
「不安です。」
家を出る時、捕まえていた連中の縄の様子を確認し、再度徹底的に縛り上げていた。
「本人が問題ないと言ったんだ。それ以上どうも出来ない。
何より、不信故の甲斐甲斐しい世話を焼きより、信じて何もしないほうが優しさになる場合がある。
この場合はそうだ。それに……だ。」
「それに、なんでしょう?」
言うべき、いや……必要ないな。
「いや、なんでもない。
兎に角、あれだけ助けたんだ、それでもう十分。断られたならそれはもう諦める他無い。
警備官も来ると言っていたんだ。杞憂だとも。」
それを聞いて、首を傾げる。
「それです、それなのです。
他の事柄には明確な答えが出せたのですが、最後のその言葉だけが引っ掛かりました。そしてその引っ掛かりが、未だ解決していないのです。
何故あの道に、頻繁に警備官がパトロールに来るのでしょう?あの道は、そこまで……治安が悪いとは思えないのに、そこがまるで……」
言い淀む。色々と言い換えようとしているが、つまりこういうことだ。
「あんな寂れた場所をわざわざ警備官がそんな頻度で来るなんて、まるでそこが犯罪の温床であるかのようだ。」
「いえ、そこまでは…………」
完全に言葉に詰まった。
思案顔。その表情の裏側には突飛な想像が組み上がっている。けれど、踏み込めない。パズルのピースは揃っていても、それを組み上げる勇気が無い。
あの場が釣り場で、あの老主人は餌で、そして、老主人はそれを合意の上であると考えられない。
それが正解であっても、正解に踏み込む勇気はない。
チフア=バスカヴィルは迎える準備をしていた。
先刻淹れたものの二煎じ目で良いだろう。
クッキーは全部渡してもう無い、あったとしてもやる気は最初から無い。
その代わり、大きな土産をやるんだ。文句は言わせない。
「さてと、盗まれるほど大したものは、ここには無いけどね……」
家の中の物をある程度片付け終え、無くなった物が無いことを確認する。
「けど、こんだけ散らかし立ってのは許せないね。掃除が大変ったらありゃしない。」
ぶつぶつ言いながらも淡々と片付けていく。
ドアをノックする者がいた。
「はーい、今開けるからね。」
「チフア婆、しぶとく生きてますー?」
やる気があるのかないのか解らない警備官がドアを叩く。
だが、反応が無い。
「ありゃりゃ、本当に死んだかな?」
警備官の表情が変わって、腰にぶら下げた警棒に手をやる。
「悪かったね、死んでなくて。」
いつの間にか後ろを取られていた。
「残念生きてた。」
「倉庫に荷物を置きに行ってたんだよ。本当に残念だったね。
そら、取りに行きな。」
「お茶を一杯ほど……」
「さっさと仕事しな!」
「はーい……あらら、随分と痛め付けられたようで、可哀そーに。」
倉庫内で伸びた3人を見て、警備官は頭を抱えた。
本章はここまでです。さぁて、次は楽しい楽しい○○関係の章ですよ。




