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致命的に一手足りない


 シェリル=モディリアーニには敵意が無い、当然だ。

 シェリル=モディリアーニは本気で言っている、紛れもなく。


 それを見て、さっきまで人殺しを仕掛ける目をしていた男達二人が毒気を抜かれて安堵している。

 シェリル=モディリアーニには敵意が無い、事実だ。

 シェリル=モディリアーニが言っていることも本気だ。

 だが君達が嘘を吐いていないとは、君達が正当な家主だとは一言も言っていない。考えてもいない。

 『この家に来たばかり。』とは言ったし、そう考えている。

 だが、来た理由と目的が真っ当なものとは考えていない。

 『この家の元々の持ち主は……ご不幸か、あるいは本人が予想していなかった理由で家から出ることになり、そんな状況下で貴方達お二人がここに来ることになった。』と言ったし、そう考えている。

 本人が予想し(君達の)ていなかった(襲撃が)理由で家から出る(拘束される)ことになり、そんな状況下で貴方達お(押し込み強盗)二人がここに来ることになった(家主面している)

 そう考えている。

 わざと恐怖をチラつかせて脅かして、判断力を散々失わせた後で恐怖を取り払っただけ。

 安堵する要素は一つも無いのに、まるで全ての危険と嫌なことが消えたような顔をしている。

 あれだけで油断をするとは、悪党としてあまりに間抜けな連中だ。賊が平和ボケをするとは笑えやしない。


 シェリル=モディリアーニは今、彼らに確信を抱いている。

 家主は彼らによって拘束されている。

 最初、散らばった物に隠れて床下収納があるかと疑った。

 だから、名乗りの時に床を大きく踏み鳴らして足元の様子を確認した。結果、足元から空洞を反響させるような音は聞こえなかった。

 台所の方にあった扉の向こうに拘束されていると考え、花瓶を口実に近付いてみたが、動揺が無く、そちらに向く視線が無かった。これも違う。

 そうなると……だ。

 最初の一声は居留守を使ったのに、倉庫や軒下を借りたいと言った途端に家の中へと案内された。

 文字通り泥棒が家探ししたばかりの家の様子を見られ、翌朝までまともに家探しが出来なくなるのを承知でここに招き入れた理由。

 「倉庫の中で未だ生きている。」

 倉庫の鍵が閉まっているなら家に招く必要はない。何故なら死体は騒がないから。

 家の中も荒らされてはいるが、それは争った時の無軌道で無作為なものではなく、強盗が仕事を行った時の目的がある荒らし方だ。殺しは行われていない。

 そう、だからこの茶番にわざわざ付き合っている。

 荒事になり、万一にも逃したら人質に危害が及ぶ。そうでなくとも現状、人質の状態が解らない。

 毒を盛られている可能性、特殊な魔道具で拘束されている可能性、倉庫には監禁されていない可能性まで……

 こいつらを手荒に制圧すれば、万一の最悪の事態に口を割らせる手段がシェリー君には無い。

 私にはあるが、それを実行することを絶対に許さない。

 結果、この状況に落ち着いて……陥っている。現状下手に追い詰めると厄介。だがこのまま盤面が変化するまで時間を浪費することも出来ない。

 致命的に一手足りない。

 倉庫に監禁されている場合、急がなければならないからだ。この家を見る限り家主は……


 「助けてください!」


 聞いたことのない声が聞こえた。



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