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敵意は無く本気、けれど……

 「不自然な点は他にもあります。」と言葉を続ける。

 指先の花粉をハンカチで拭き取り、ゆっくり家の中を歩き出した。

 「お二人が住むにはこの家は小さ過ぎます。

 あぁ、狭いという意味ではなく、体格比で考えて、家具のサイズが小さ過ぎるという意味です。

 テーブルや台所、そしてベッド。どれもこれも、私よりも身長が低い人が使うことを想定した高さになっています。

 私でも少し不便さを感じるサイズです。

 私よりも恵まれた体格のお二人は日常生活を送る上で致命的な差し障りがあるでしょう。そして……」

 立ったのは、ベッドの横。

 「お二人の体格ではこの大きさのベッドで眠る事は困難です。体を折り畳んでベッドの上に横になったとしても、寝返りさえ打てないでしょう。

 そう、一人でも(・・・・)、困難なのです。

 この家にお二人で住んでいるのでしたら、もう一人は一体どうやって眠るのでしょうか?」

 「そ、それ、それは、床で……」

 「床に伏して眠るのですか?寝具も無しに?」

 「いやいや、流石に寝袋が用意してあって……」

 「見当たりませんよ、そのようなものは。」

 「き、昨日破れて捨てたところなんだ!」

 「それは、どちらの方の物でしょう?

 ラズ様ですか?それともブエル様?」

 「誰のかなんて覚えていねぇ!!」

 執拗に追及されて冷静さを欠いた。声が大きく、攻撃的な口調になっていた。

 やってしまったと気付いた時にはもう、沈黙が広がっていた。

 沈黙を破る勇気は無い。どう出るか、出方を伺うか?そんなことを考えている間に沈黙は破られる。


 「ここはお二方の家ではありませんね?」


 沈黙に投げ入れられたその一言は爆弾のようだった。


 『完全にバレている。』

 そう思った瞬間、不思議とさっきまでの動揺は消えていった。

 相手は警備官。恐らく強い。

 だが、こっちは二人。しかも一人は死角を押さえている。

 さっき眠らすのに使ったハンカチは未だある。

 狭い室内で純粋な力比べになればこっちが勝つ。

 捕まったら無事じゃ済まない。ならいっそのこと……。


 「お二人はこの家に新しく来たばかりなのでしょう?」


 え?


 「自宅というなら、何かものを探すために、ここまで家全体を探す必要なんてありません。それが置かれるであろう場所、それが物理的に置ける場所を探せばよいのですから。

 しかし、この部屋の探し方は、探したいものの形状や性質、探す場所の検討がそもそもついていない人の探し方です。

 おそらく、この家の元々の持ち主は……ご不幸か、あるいは本人が予想していなかった理由で家から出ることになり、そんな状況下で貴方達お二人がここに来ることになった…………。

 お二人とも十分な準備も説明も無いままここに来た……。

 だからこの家の調度品に詳しくなく、家具のサイズは合わず、勝手を知らない家を探していた……ですよね?」

 敵意が無い。

 本気で言ってる……のか?


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