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ヴェイクポットは火にかけないで下さい

 評価頂きました。ありがとうございます。

 気付いてる?気付いているのか?

 震える右手を震える左手で押さえ付け、3つ並んだポットの中で大きなものに水を入れる。湯を沸かしている間、時間稼ぎがしたい。真正面から相手にしたくない。


 こんな寂れた場所にこんな時間に休職中の警備官が来るなんて出来過ぎている。


 かまどは……無い、どうやって沸かすんだ?


 いっそ追い出すか?いや、疑われたまま外に出られると余計マズイことになる。


 火は……あぁ、これか?魔道具なんて贅沢な……。

 台所、水場の横のつるりと光沢のある板の上にポットを載せ、側面についた火のマークの描かれたスイッチに触ろうとして……


 「花瓶が割れてしまいますよ?」


 後ろから声がした。

 いつの間にか、女が立っていた。

 心臓が吹き飛びそうなほど跳ねて、多分、少しだけ、止まってただろう…………。

 「誘われたお茶会で酷く侮辱され、花瓶の水をかけられたとある貴族が、仕返しのためにとティーポットによく似た花瓶を作り、それを用いて次の茶会で水をかけた相手を(あざむ)き、まんまと花瓶の水を飲ませたという逸話のある『ヴェイクポット』。

 今は純粋にそのユニークなデザインや機能性を評価されて高級陶磁器メーカーの代表的なブランドとして有名になりましたが、こちらは……あぁ、素晴らしいです。

 間違い無くこれは30年前に作られた再現品。

 実際に花瓶の水を飲ませるために使われた本物のヴェイクポットと同一デザインのものです。

 実物を見るのは、初めてで感動を覚えます。」

 ポットを触らないように、吐息がかからないように、細心の注意を払いながらそれを見る。

 「花瓶に、お詳しいんで。」

 「いいえ、それほどでも。

 これをポットとして食器に紛れさせて隠そうとした不届きな犯人が以前にいましてね。」

 「そ、そうなんで……。」

 「はい。しかし、それを知らないメイドがうっかり火にかけてしまい、それを見て隠した張本人が慌て出して、そこから怪しまれて、めでたく捕まりました。」

 にっこりと微笑みかける。

 「オリジナルはポットとしても使うことを前提にしていたので火にかけても問題ありませんが、再現品はあくまでも花瓶なのでおすすめはしません。

 折角の稀少品の価値を損ねてしまいますから……」

 「価値……?」

 「えぇ、最初に花瓶の水を飲まされた貴族の家が侮辱されたと訴え、再現品は直ぐに販売を中止。売られたものも回収されたと聞いています。

 本来なら処分されてあるはずのないそのポットの価値は、図り知れません。」

 渦巻く恐怖の中に、1つ、生まれたものがある。

 それは安心と安寧のために危険を避けようとする本能たる『恐怖』よりも時に人を突き動かすもの。

 『強欲』だ。



 名前の由来はvase(花瓶)とfake(偽物)を合わせてヴェイクです。


 そして、今日から待ちに待ったライトアニメ展の始まりです!ぜひ見に来て下さい。

 ちなみに、日替わりでアニメがスクリーンに投影されるそうです。もしモリアーティーを赤面しながら見ている不審者を見かけたら、そっとしておいて下さい。高確率でポーカーフェイスに失敗した私だと思うので。

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