かいてきなたびを貴女に
『モリー=アーティー』改めシェリー=モリアーティー、そして仮称『ボイリス=ハウンド』が別れる前のこと。
賊があっという間に跪かされ、大男の一突きが少女を横切った後、大立ち回りを見届けた後のことだった……
「良かったでさぁ……」
安堵する男の声。
「無事だったよぉ……」
緊張が解けて腰を抜かした男の声。
「…………ったく、あの子は…………」
怒りとも呆れとも違う感情の発露を口にした女の声。
三者三様ではあるが、一人の少女を思う気持ちは共通していた。
「さて、どうしますかい?このままここを下って、追いかけて、合流で、それで良いですかい?」
「う、うーん、どうしよぉ…………うーん。」
無事を喜んでいる。それは共通している。が、同時に共通して歯切れが悪い。
「アタシ達は、必要だったかね?」
どうにか向き合わずに済ませようとしていた言葉を口にした。
「そ、ソイツぁ……」
「そ、それはぁ……」
「アタシらなんて居なくても、あの子は見ての通り無事に立派にやれてた。
アタシらがこうしてやってるのは、単なる自己満足で、あの子のことを、もしかしたら考えていなかったのかね……」
頭のどこかで、過剰だとは理解していた。
掃き溜めで腐っていたところで優しくされたから、救われたから、ここにいるのは彼女あってのことだからと、彼女のためなら何だってしてやろうという気持ちがある。
やり過ぎだ。だが、それの何が悪い?
「アタシらが出しゃばって、好意の押し売りをして、あの子の邪魔になっちゃ、意味がない。それならいっそこのまま……」
「いや、それは違うよぉ。」
言い切る前に遮った。
「確かに、俺達は出しゃばってるかもしれないけど、空回りすることもあるかもしれないけど、だからって何もしないのはナシだよぉ。」
「そうでさぁ。あの子の事は知ってるでしょう?
今だって物凄い速さで走ってやした。平気そうな顔をしてましたが、無理してるかもしれやせん。」
指摘する者がこの場にいないが、その見立ては正解も正解、大正解である。
「立派にやれても、シェリーちゃんは未だ子どもだよぉ。
そして、俺達はいっくら情けなくても、無様でも、力が無くても、あの子に守られたことがあっても、それでも大人なんだよぉ。
守らないといけないんだよぉ。あの子が大人になるまで、誰かのために頑張り過ぎるあの子が倒れないように、支えないといけないんだよぉ。」
「……ふふ、あはは……アッハッハッハッハッハッハ!
アタシも焼きが回ったかね?随分と弱気になっちまって、目の前以外見えなくなってた。
情けないったらありゃしない!
そうだったそうだった、その通りさね。」
笑いながら、馬車へと向かう。
「デカン、パニンニ。合流は止めだ止め。
その代わり、一仕事して戻るよ。」
仮称『ボイリス=ハウンド』が馬車を走らせる前のこと。
「はっはっはっはっは!さぁ木っ端賊共、あんたらに大盤振る舞いのプレゼントだよ!」
笑い声と共に暴走馬車が走る。
「三食労働付きの別荘行きのチケット、遠慮せずに持ってって下せぇ!」
辺りに潜む良からぬことを企む連中を嗅ぎ付け、やって来る。
「ただし、出される飯は『臭い飯』だよぉ!そこは諦めるんだよぉ!」
馬車の上から魔道具投網を発射しては捕縛。発射しては捕縛を繰り返す。
抵抗?暴走馬車に引き摺られて挽肉にならないようにと必死になってそれどころの話ではない。
こうして、少し荒っぽくはあるが、彼女の行く道の治安は格段に良くなった。
評価ありがとうございます。




