素敵な旅1
「誠に!誠に申し訳ない!」
その巨体を折り畳んで頭を地面に着けて平伏する。
元が大きく、質量が変わるわけでもないから畳んでも大きく圧迫感があることに変わりはない。
「頭を上げてください!あの場ではあれが最良の選択でした。」
シェリー君に突きを放ったこの髭大男、名をボイリス=ハウンドという。
この髭大男はシェリー君に初撃を躱され、いざ二撃目!というところでやっと自分が襲い掛かろうとしている少女の背後で寝ている賊の存在に気が付いた。
自分が武器を構えているというのに、それを見て安堵しているという異常な光景も加わり、すぐに自分が致命的な誤解をしていることに気が付いた。
その結果が土下座だ。
「命の恩人たるレディーに剣を向ける無礼!
これでも到底足りぬ!
非常に申し訳ないことをした!」
「眠っていたところで急な横転。
更に周囲には複数の人の気配。
その上戦闘音がしているとなれば私も同じことをします。」
「うむ……だが……」
命の恩人を勘違いで危うく殺しかけたというのは確かに重大な勘違いだが、大袈裟が過ぎる。
馬車と男の身なりを見る限りその辺の商人や農夫ではない事は明らかだ。それが小娘一人への御礼と謝罪の為に地を這うマネをするというのは、文化や形式という点からしても、あまりにも大仰だ。
髭大男は未だ譲ろうとしない。
シェリー君がどうしようかと思案し、そうして名案を思い付いたとばかりに顔を明るくした。
「緊急避難!そう、これは緊急避難です!
多勢に無勢で襲撃されたばかりで、私が敵ではないと判断するのはあの段階では困難でした。
その状況で馬車に隠れ、剣を構え、馬車に入ろうとした人物を迎撃するのは、やむを得ない行為です。
その行為は正当なものであり、勘違いだと気付いて直ぐに攻撃を停止したことを私は確認しています。
私は負傷しておらず、今の行動を非難する気もありません。
で、あるなら、ここは私がお礼の言葉を頂戴して、そちらで気絶したフリをしている御者の方とも協力して、彼らを捕縛する方が良いかと思います。如何ですか?」
一瞬、男の体が硬直した。
「……もう良いぞ。」
髭大男が御者席でピクリとも動かずにいた男に声をかける。すると、狸寝入りを止めて御者が起き上がった。
「お二人ともご無事な様子。であれば、捕縛を手伝って頂けますか?」
それ以上は言わせないとばかりに手に持った二束の縄を髭大男に渡した。
「…………承知した。」
髭大男は観念したように縄を手にして御者と共に気絶した賊を慣れた手付きで縛り始めた。
評価ありがとうございます。いただきます。




