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馬車は飛ぶものではない。

 副会長が情報を止めていた。

 仕事を積み上げて足を遠退かせた。

 それでも『やるだろう』と思われていたのでお目付け役は仕込んであった。


 前職の伝手を駆使して学園内から漏れてくる情報を入手。Xデーを3日にまで絞り込んでいた。

 山積みの仕事は、未だに落ち着かない表現だが部下(・・)を上手く動かして減らし、それでもどうにもならない高難易度の輸送は全て最速で片付けた(・・・・・・・・・)

 お目付け役を躱すためにギリギリまで仕事を続け、学園から遠い地域への運送を敢えて最後に回した。



 【夜】


 「疲れたろ、ほら、休んでな。」

 お目付け役1人目は疲労困憊で、かつ油断し切ったところで休みを与えた。あっという間に眠りに落ちた。


 「ちゃんと水分補給はしなきゃ駄目だよぉ。」

 お目付け役2人目は体力自慢で疲労は然程なかった。だが、油断していた。

 正確に言えば、3人がそこまで(・・・・)やるほど本気(・・)とは思っていなかった。

 だから渡された物にそんなものが入っていると疑わず、睡眠薬が効いて眠りに落ちた。



 「後は1人。」

 「けど一番手強い。」

 2人は顔を見合せて呟いた。

 疲労もなく、油断もなく、常に自分の馬の横に佇んでいた。

 『あの3人、絶対(・・)絶対(・・)絶対(・・)絶対(ぜーったい)に逃げるんで追跡頼むっすよ。』

 幹部の1人からそう念押しされていたので警戒していた。

 だから、夜明け前。

 夜空に朝陽の色が混じり始めたに動き出した馬車に比較的直ぐ反応できた。

 「来た!」

 馬に飛び乗り、寝起きで少しだけ不機嫌な愛馬を繰り、駆け出した。


 「来た来た来たよ!」

 他2人と比べて明らかに違っていた。

 帳簿に書き入れるよりも走路を駆け抜ける方が性に合っているとでも言いたげな乗馬スキル。

 限界状況下で細く、しかし切れることの無い集中力を伸ばし続ける忍耐力。

 そして、こうして獲物を追いかける執念。

 「こっからが正念場でさぁ!」

 夜の間、ずっと馬車に潜んでいたデカンが手綱を握り、朝日の中で矢のように駆け、叫ぶ。

 後ろからは鞍もつけていない馬に乗った男が一人、徐々に徐々にその姿が近付いて来ていた。

 追い駆けて来る。




 馬車+3人。

 1人。

 牽引するものの差だ。

 速度もスタミナも小回りもこっちが上。

 馬車の前に回り込んで馬の動きを止めればもう勝ちだ。

 強引に前に回り込もうとする。が、馬車は不規則な曲線軌道を描いて前に回り込ませようとしない。

 扱いは普通に上手い。

 が、それだけだ。

 特別何かがある者の動きじゃない。

 あんな言われ方をされる理由にはならない。

 己の馬術(走り)を軽んじられて、冷静でありながらも少しだけ腹が立った。

 この道を進んでいった先。川に架かった長い橋へ辿り着く。

 そして、その道幅は馬車一台と馬一頭分を余裕で越えていた。

 減速したらその隙に前に出て……なに?




 『ま、あの3人のことなんでどうやっても止められないとは思うっす。

 なんで、逃がしても気にはしないようにするっすよ。勉強しに行くといいっす。

 ちなみに、参考にはしない方向でお願いするっす。』

 レンさんからはそう言われていた。

 業腹で、屈辱だった。

 馬術に自信がある。実際に他人と比べても巧かった。

 自分の足以上に上手く操れる自信があった。

 負けることはない。

 今だって勝てると、追いつけると、思っていた。


 「腹括って下せえ!」

 「準備万端さね!」

 「まっすぐだよお!」

 橋を渡らず、川へと落ちていった。

 視界から消えてしまった。

 立ち尽くして、そして、恐る恐る下を見て……


 「「「最短距離!!!」」」


 崖下、川べりの道を走ってく3人の姿が見えた。

 大人しく戻って、レンさんに報告することにした。

 その時の自分の表情は多分、引き攣っていただろう。


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