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淑女と小さな淑女の別れの挨拶2


 暫し、沈黙。

 「淑女の零は、狭い世界で生きている世間知らずの我々が、外に出て生きて、広い世間を知る良い機会です。」

 淡々と話し出す。

 「しかし、外に出て生きるということは、敵意や悪意、害意と隣り合わせで生きるということでもあります。

 もし進むのであれば、今までの理不尽が児戯と思えるような、そんな場面に出くわすことになるでしょう。」

 表情も声音も変わらない。だが……

 「相手が未熟な若人だからと貴女に慈悲や情けをかけることはありません。

 どころか、道を外れた者は、未熟な者だからと嬉々として利用し、弱い者を搾取する方が摂理であると考えています。

 今までの、未熟者同士の戦いとは違います。相手は貴女より力を持ち、経験を積み、狡猾な人間ばかりです。」

 「……………………」

 「もし、貴女が恐ろしいと思うのであれば、淑女の零は断りなさい。

 理不尽に口を塞がれ、手足をもがれ、明日を失う前に逃げなさい。

 貴女がここで進むのであれば、その先に立ち塞がる相手は間違い無く理不尽な力を持っています。逃げることさえ、許されなくなります。

 立ち向かうことが、突き進むことが、戦うことが必ずしも正しいとは限らないのです。」

 逃げを選ばない者は歴史に名を残さない。理由は簡単、将になる前に死ぬからだ。

 かの淑女の言うこと、それは一つの道理で真理だ。

 真理なのだが、ふむ……。

 「ミス=フィアレディー。含蓄あるお言葉、ありがとうございます。

 その言葉を聞くのは二回目です。そして、二回とも仰った方は、尊敬出来る立派なお方でした。

 私は、その言葉を道理だと思います。」

 嬉しいことを言ってくれる。

 「けれど、誤解が二つあります。

 一つ、私は逃げようとは思っていません。私が願っても手に入れることの出来ないこの機会、逃したいとは思いません。」

 真っ直ぐ、淑女を見る。

 緊張はある。が、揺らぎはない。

 「もう一つは?」

 「はい、それは、私にはもう逃げ道は無いということです。

 こうしてショーマス=ゴードン様からの御厚意で機会を頂きました。が、それを断ればもうここに私の居場所は無くなります。

 先に進むしか、私に残された道はありません。」

 屈託の無い笑顔。だがそれに対して淑女は初めて、ほんの僅かで微かではあるが、表情を崩した。

 そう、スバテラ村の一件はトッドことショーマス=ゴードンの『淑女の零の打診』という破格の評価があって辛うじて及第点になっている。

 それを蹴ればシェリー君の居場所はこの学園から無くなる。

 今すぐ商会に向かえば商会幹部に迷惑が掛かると考えてシェリー君は行かない。

 今から故郷に行ったところで彼女の居場所はない。

 何より…………いや、もう止めておこう。兎に角、逃げるという選択肢は最初から無いのだ。

 敵意?悪意?害意?理不尽?力の差?狡猾?明日はない?

 今更だ。

 今日の理不尽を退けなくては彼女に明日はない。

 その覚悟で、彼女はここにいる。

 いつでもその覚悟が出来ているから、この道を選んだ。

 遅い。


 連日評価頂き感謝します。

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