淑々と説得して
「先ず、先日の件について。これは課題を課した私の責任です。責任の所在は私にあり、如何なる処分も受ける覚悟です。」
息苦しくなる。淑女の発した『覚悟』という言葉、それが意味するところが比喩でも大仰なポーズでもなく、責任を取れるなら命すら絶つ覚悟が出来ている人間のそれであった
「しかし、これは私の責任であり、課題を課された生徒が私の失態で損失を被ることはあってはなりません、決して。」
言葉に詰まる。
「次に、この学園は淑女のための学園です。
商人であろうが、平民であろうが、罪を償った罪人であろうが、入学に足る資格があれば門は開かれます。相応しくないとなれば、再度門は開かれます。
それだけのことです。これは彼女の本質を看破する事が出来なかった我々全員の責任であり、貴賤で語るべきことではありません。」
藪をつついて蛇どころか竜が出てきた。
そもそも、学園に入学した段階で彼女を一定以上認めたことになる。今まで何年もその本質を見破れなかったのはそこを管理する自分達全員の責任。
誘拐の責任を問われるとなれば、自分達も無事では済まない。
「評判を下げたという旨の話がありました。
確かに、処分を受けた生徒は許されない不正行為を行って学園の品位を落としました。
しかし、それは一部の不正行為を行った生徒だけの話。
品行方正な生徒は派遣先の人々から信頼を得て、協力体制を整えて見事に淑女を示しました。感謝の手紙や再度の派遣依頼の声も多く届いています。
そんな彼女らの行いを見ずに評価するというのは如何なものでしょう?」
「け、けれど問題行動があったのは事実。これ以上新しいことをして問題のリスクを生むのは賢明ではないと……あ。」
「淑女の零は元々あったものです。」
片端から答えていく。
そして、懐からあるものを取り出す。
「これは先日ショーマス=ゴードン氏より届いた手紙です。
『淑女の零の申請書類』とは別に、シェリー=モリアーティーに宛てた『正式な感謝状』が届いていました。
これでも彼女がこの学園の品位を貶めると、相応しくないと、言えるのですか?」
本心を隠して口では何とでも言える貴族社会において、文書を残すというのは大きな意味を持つ。
しかも、そこに家名が入っているとなれば公的な場で効力を持つことさえ有り得る。 平民に対し、ここまで敬意を払う対応は滅多にみられない。
大貴族の当主の行動の前に、答えられるものはいなかった。
「反論が無いようなら、ゴードン氏に返事を書き、彼女を呼んで説明と同意を始めます。」
今度こそ、誰も否定しなかった。
一見、淑女はシェリー=モリアーティーに肩入れしているのでは?とも思うが、生憎とそうではない。
「安心して下さい。淑女の零は長年行われてこなかったが故に既存の評価基準が使えないことは承知しています。
卒業に際しては淑女の零対象者に対して私が監督する特別試験を行う予定です。
淑女の零に参加したからと怠惰になることは許しません。」
この中でシェリー=モリアーティーに対して一番厳しいのは、間違いなく彼女である。
「特別試験は作成の後、皆さんには内容の確認をしていただきます。
ご協力、宜しくお願い致します。」
淑女が退室した後、泡を吹いて倒れたものが居たとか、居なかったとか。
甘い訳がないのです。
淑女の試験や課題に不正はありません。挟まる余地が無いので。
言いがかりの余地もありません。息巻いていた連中は虫の息なので。




