それぞれの新天地へと9
幕が開いたなら終幕まで止まらないし止まれない。
拍手を!
喝采を!
歓声を!
息を呑み、手に汗握り、瞬きする間も無く観劇あれ。
「大丈夫なの?」
不安と疑惑の入り混じる表情だった。
無理もない。行方不明になっていた夫が無事帰り、何があったかを答える前に『一番の問題を解決する方法を見つけた!』と嬉しそうに答えたのだから。
「大丈夫だよ。頼むのはあのアールブルー学園の生徒さん、しかも成績優秀と認められている特待生だ。」
「今まで優秀で実績のあるプロを何人も雇って無駄になったでしょう、忘れたの?」
不安と疑惑はより濃くなる。
無理もない。今まで優秀だと、実績があると、エリートだと、ベテランだと、聞こえの良い謳い文句を聞いて、裏切られてきたのだから。
「そんな娘を急に引き込んで、あなたは一体何がしたいの?」
夫の奇行、愚行と言っても差し支えないその行動を訝しむ。摩耗した精神はその裏に何かあるのではと疑ってしまう。
「心配しないでほしい。僕が一番愛しているのは君とモンテルだけさ。
今まで優秀で実績あるプロに任せて上手くいかなかった。なら、方法をガラッと変えてみるのも手だと思ったのさ。
もしそれで上手くいかなかったら、その時は辞めてもらえばいいんだからさ。
ものは試しさ。若者の方がモンテルの良さを知って仲良く出来るかもしれない。」
「…………解ったわ。
今はあなたの眼を信じます。」
「モンテル様、モンテル様。
どこにいるのですか?」
森……とは言わないが林にしては大きな木々の群れに使用人は問い掛ける。
「なんだカテナか、ビックリして損した。
どうしたの?」
人影を見て木の上に隠れた少年が足をぶら下げて手を振る。
その身なりは木登りをするようなものではない。
「どうしたのではありませんよ。
家庭教師の先生がもうお見えになる時間です。着替えて支度をしませんと……」
「来ないよ。」
「どういうことですか?」
「さっきそこの道で転んで泥だらけになって帰って行ったのを見た。
アイツはもう来ない。」
それは事実だ。しかし、大事なことが抜けている。
「モンテル様がやったんですね。」
使用人が怒った声色になる。だが、生来攻撃性の無い彼女の怒り方は下手だ。
「ちがうよ、勝手に転んだんだ。」
(水撒きをして、表面だけ乾かしてカモフラージュした場所に足を踏み入れて)勝手に転んだ。という話だ。
少年は笑う。
使用人は怒る。
当主は希望を胸に。
夫人は不安を胸に。
現れた特異点の少女と邂逅する。
ショーマストゴーオン→ショーマス ゴーオン→ショーマス ゴードン
そういうことです。
もう一話だけ、第一部をお楽しみください。




