それぞれの新天地へと5
「あれ?ナニコレ?」
家の端、ジテンが取り付けてくれた暖房と灯りの近くに小さな箱が置いてあった。
鉄で出来た、表面に変な模様が入った変な箱。
「ジテン……忘れ物?失くしたら困るものだったら返さないと……」
箱を掴もうとして、箱が光った。
『あぁ、オーイ。これを君が聞いているなら、多分私はこの村から出て行っているんだろう。』
「箱が喋ってる?」
光る箱からジテンの声が聞こえてきた。なにこれ?
『これは録音……あらかじめ喋った内容を魔道具に話させているだけだから一方的な言葉掛けになるが、単純な君のことだ、今頃『箱が喋ってる?』と驚いている頃だろう。』
大当たりだ。言い返せない。
『これを見つけたのだって、シェリー嬢に触発されて、何をしようか迷って、見当も付かないと匙を投げている時に偶然見つけたんだろう?』
大当たりだ。けど腹立つ……
『もし、この予想が当たっていたなら……私は君を最低限評価しよう。
焦る気持ち、羨む気持ち、憧れる気持ちや停滞する自分に対する苛立ちは向上心の裏返しだ。』
珍しくジテンが私を褒めた。
『見ての通り私は自称そこそこ天才の発明家だ。
賞賛すべき相手はちゃんと称賛するし、やる気のある若人にはしっかり道を示すくらいはやる。
もし、君が停滞を嫌うなら、努力をして何かを掴みたいなら、これを使うといい。』
箱が割れ、いや、開いた。
『使いたければ使うといい。文字や単語、日常的に使うものの構造と修理方法、マナー、魔法、娯楽小説、美味しいココアの淹れ方まで記録してある。学びたいこと、知りたいことがあればその本を開いて、人に訊くように話しかけるといい。』
開いた箱がカシャカシャ音を立てて本の形に変わった。
『壊れたら記した宛先に送るといい。修理しよう。』
本からジテンの『家』にあった不思議な魔道具みたいな動く絵が出て来た。
けど……
『『そんな高いもの私に渡していいのか?』と言われる前に行っておく。
構わない。それはもう必要が無くなったものだ。使える人間が使ってこそ発明は意味を成す。
それに、なんやかんやでシェリー嬢や君とあれこれ話しながら発明をするのは久々で楽しかったんだ。
私からのお礼だと思って受け取ってくれ。そして願わくば……』
君の将来の役に立たんことを。
そう言って、本は静かになった。
「……………ありがとう、ジテン。大事に使うよ。
じゃ、先ず初めに………美味しいココアの淹れ方教えて!」
この後数日間、彼女は自称そこそこ天才からの贈り物を玩具のように扱い、そしてそんな事もあろうかと製作者が仕込んでいた『これは勉強用だ、もっと有効に使え!』というメッセージを聞いた彼女は無事勉強を始めた。
若人は成長という変化を望み、新天地へ。




