それぞれの新天地へと4
いいね、ありがとうございます。
皆がなんだなんだと杯を置いて耳を傾ける。
「町の灯り。あれを輝かせる燃料には限りがある。
あの町が輝けるのは持ってあと10年。」
本当はもう少し輝けるという話だった。だが、敢えてこう伝える。
「我々はその間に考えなくてはならない。探さねばならない。
この村が、あの町が長く栄えて、子ども達に誇れる輝きを、贈ることが出来る新たな灯火を。」
言葉は、貰った。
『あの灯りだけではこの村は、あの町はここまで息を吹き返すことはありませんでした。
こうなったのは、この光景を作ったのは皆さんの努力と能力あってのこと。
私は、あの太陽が夜を迎えても、ここが輝き続けると信じています。』
若人からの尊敬と希望に満ちた眼。
村長として、先達として、助けてもらったこの命は、若人のために使わなければならない。
「なんだ、そんなことか。」
杯を再度手にする。
「そんなこと……?」
「まーまー、今はそんなこと忘れて呑もう呑もう。」
笑って杯を傾ける。
気のせいではなかった。
「なーに、そん時が来たらそん時に何とかするだろ。」
杯を干し、更に注ぐ。
「村長、難しく考えないで今を楽しもう。後の事は置いといて、今今。」
酔っている。それは酒だけではなく、今のこの光景に。
少し前まで瀕死だったこの村の光景を忘れ、不夜城と化した今だけを見ている。
あの日々から目を背けているだけだ。
このままでは貰ったものを食い潰すだろう。
その時になって慌てて、終わるだろう。
そして、子ども達に託すものは無くなる。
村長は太陽の様な灯りに照らされる酒宴の先に、新月の夜を見た。
【同じくスバテラ村にて】
「モリーは帰ったし、ジテンは出てったし、私はどうしよっかな?」
面倒なアホ達がいなくなったお陰で厄介ごとが減った。
ドクジーが居なくなって村に医者がいなくなったが、その辺はもうモラン商会が手配してくれていた。
チビ達3人は何か悪戯を企んでいるらしくて私に来て欲しくないらしい。
町には人が沢山。働く?そうしたいけれど、働く場所が無い。
物心ついた時には閑古鳥が鳴いていて、まともに接客なんてしたことがない。
「あーでも、ちびっ子の頃に看板娘やってたって言ってたっけ?」
子どもの頃、ぼんやりとした思い出の中で、親戚の人達にちやほやされていた記憶があった。
今考えれば、あれは親戚ではなくお客さんだったのだろうが……今あんな子どもじみた振る舞いで看板娘なんてやれない。
今から接客の仕方を勉強する?いや、そもそも私は文字の読み書きさえ怪しい。接客云々以前に何とかしないと…………。
「んー……ん~……………ん!よし、考えるの止め。一回休もう。」
頭を抱える。
私と変わらないモリーが、私よりも大変なモリーが頑張っている中で、私だけこうしているのは、なんだか気持ち悪い。
けど、どうすればいいか見当もつかない。
嗚呼、ここでも先延ばしにして最後の最後で後悔して喚く愚か者が一人……。そう嘆く者もあるだろう。
だがしかし、村の大人達と違って彼女は若く未熟だ。
そして若くて未熟な彼女には、選択肢を渡してくれる素敵な大人がついていた。
問題点:酒宴で話を振ったこと。
ちなみに敗因ではありません。どこで言ってもこうなっていたので。




