それぞれの新天地へと3
【???にて】
門扉が開き、彼女は学校という居場所を失った。
しかし、村の4人とは違って罪に問われる事はなかった。
人の財産を破壊し尽くそうという意志があった、人の命を灰に変えてやろうという意志があった。これは法の正義によって罰を与えるべき罪だ。そう呼ばずしてこの非道を何と言おう?
しかし、仮にも貴族の血統、親が権力を振りかざせば、警備官如きでは太刀打ち出来ない。
この国の正義は脆く弱く儚い。
だから嗤った。トランシア=バックドールは学校を失った。けれどそれだけだ。そう思っていた。
「お前は初めからバックドール家の人間ではない。その看板を掲げることも許さない。
あれだけ我が商会の財産を食い潰して、悪事を露見させ、商会の名を貶めて、許し難い。
預けた資産は迷惑料としてもう回収した。それで勘弁してやるからどこへなりとも行け。」
勘当された。
けれどまだ自分には培った商人としての力がある。ゼロから成り上がって今度はバックドールを買い取って……
「小娘と買い物なんてするかよ。」
今まで手もみをしておべっかを使ってきた木っ端商人が唾を吐いてきた。
「どけどけ、退くんだ。ここは私の場所だ。あっちへ行け。」
私より頭も力も金も無い商人が、上から目線で私のことを蠅みたいに追い払った。
「これなら売ってやる。いやなら失せろ。」
手元にあった金でなんとか買ったのは、傷んだリンゴ三つ、それだけ。
酸っぱくて、干からびていて、まずいリンゴ。
何も買えずに、何も売れない。
誰も相手にしてくれない。
商人としての力があっても相手にされなくては意味が無い。
空腹で朦朧としてきた。
震える指で商品に手を付けた。
口の中で刺すような酸味が広がって、蜜も果汁も無いそれを、吐きそうになりながら、飲み込む。
さむい……
ひもじい……
みじめだ……
【スバテラ村にて】
「「「「「「乾杯!」」」」」」
一仕事終えた村人達が夜の集会所で杯を掲げる。
華々しいこの村の過去を知る人間は今のこの光景を見て懐かしんでいた。
「昔のようだ…」
「良い、好い、善い日だ!」
「あんな日々から抜け出せたのね。」
「楽しい、楽しい、楽しい……働くの楽しい!」
酒と興奮で酔いが回っていく。
その中心、最初の一杯を一口だけ口にした村長は思い悩んでいた。
「村長、どうしたんです?昔みたいに沢山呑みましょうよ。」
「あれぇ?村長ってたしか物凄いうわばみだったんじゃ……」
「流石の酒豪も年には敵わないか…………」
大笑い。こんな雰囲気の中で水を差す発言は心苦しい。
だが、彼女から伝えられた言葉を、忠告を伝えなくてはならない。
「皆には伝えておこうと思う。重要な話だ。そして他言無用の秘密の話だ。心して聞いてほしい。」
罪悪感に潰れそうになりながら、口を開く。
次章が、次章が遠い!




