さようならはさみしいから
課題終了の時間が迫っていた。
というより、今遊んでいるこの時間は、本来なら馬車に揺られているはずの時間だ。
学園に帰るまでの道中、万一があってはいけないと余裕をもって2日前にこの村を出る予定だったのだが、シェリー君が約束を果たすためにとモラン商会に頭を下げ、「「「三日遊ぶ時間くらい作ってやる!」」」という運び屋達の熱意もあって、こうして遊んでいた。
『子どもとの口約束だからと言って反故にするのは淑女ではありません。
相手に敬意を払って、約束を守って、一緒に楽しんで、笑顔で別れを告げてこそ、です。』とのことだ。
だが、それでも遊べるのは今日までだ。
子ども達がシェリー君にしがみ付く。
「「「ずっと一緒に遊ぼ!!!!!!」」」
「ずっとは……難しいですね。」
「帰っちゃうのやだぁ!」
「嬉しい言葉、ありがとうございます。けれどごめんなさい、私は学園に戻らなければなりません。」
「僕達の事、嫌いです?」
「いいえ、いいえ、そんなことは決してありません。短い間でしたが、皆さんと遊べてすごく楽しかったです。」
「どうやったらここにいてくれるですます?」
「それは、少し難しいですね。これから行かないといけない場所があるんです。
ごめんなさい……。」
「「「「………………」」」」
4人が一塊になっている。あー、件の三人組がやって来たのが見えるが……空気を読んで隠れた。
君達はモラン商会の運び屋、時間通りに確実に運ぶのが仕事だろう……。
「あれモリー、馬車来たけど大丈夫?荷物無いみたいだけど?」
涙涙涙涙の一塊を見て空気を読まず、呑気に声をかけたのは孫娘だった。
「三人とも離してあげな。モリー帰れないじゃん。」
「帰らない!いっしょ!」
「こうしたらずっといっしょ?だめ?だめじゃない?ね?」
「遊びたいですます。おやつ食べたいですます。楽しいですます。」
三者三様に泣き叫ぶ。だがそんなものには慣れたとばかりに頭を掻いて眠そうに答える。
「モリーが帰らないと、モリーのウチに遊びに行けないけど、いいの?」
特別大きな声ではなく、特別恐怖を煽る表情でもなく、特別な魔法を使った訳でもない。
だが、子ども達の泣き声が、消えた。
「モリーが帰ったら、私達がモリーのウチに遊びに行けるようになる。
けど、このままモリーがここにいたら、モリーのウチには絶対に遊びに行けない。
モリーのウチ、というか、モリーが行ってる学校、私は見てみたいな。」
「がっこう!」
「がっこう?」
「がっこうってなんですます?」
「モリーはね、もの凄く頭が良くて、もっと頭が良くなりたくて、もの凄く難しい本を読んで、難しい文字を書いて、難しい言葉を覚えられる人しか行っちゃいけない『学校』ってところに行ってるの。
しかも、モリーの言っている学校は特別な学校なんだ。」
子ども達が孫娘とシェリー君を交互に見て、涙を溢れさせていた眼をキラキラと輝かせている。
「モリー、帰れないと学校が無くなっちゃうんだ。
モリーの学校、私は行ってみたいと思うから一度バイバイした方が良いと思うんだけどな。
会いに行けば良いんだし。」
子ども達は考える。
「みんなは、どうするの?」
考えた末、結論に至る。




