職員室は躍る
紙吹雪が舞う。
違った、山になった書類が一枚一枚処理されているだけだ。
あまりに速いそれは真っ白な花弁が舞い散る様にも見える。
嬌声が響く。
そんなことはない。淑女の居ぬ間に命の洗濯をしていた者達がその怠惰の代償を払っているときに起こしたただの悲鳴だ。
「ミス=フィアレディー。貴女宛に手紙が届いています。送り主は……」
「ミスター=ショーマス=ゴードンですか?」
「はい、そうです。」
受け取って封を切り、中身を確認する。
内容は二つ。
一つは今回の課題の報告について。
そしてもう一つは……
「『淑女の零』。」
淑女のその呟きが悲鳴を止める。
その場にいた者の動きを止める。
空気が凍り付いた。
この学園に長く居る者は知っている、淑女の零に関して淑女は幾つか変革を起こしている。
先ずは『淑女の零』の基準がそれまでとは桁違いに厳しくなったこと。そしてもう一つ、大き過ぎる変化を引き起こしていた。
それはもう淑々と、粛々と、背筋が凍って砕けるような凄惨な清算を目にした。
それ以降、その話題は暗黙のルールで口にしないことになっていた。提案するなんてもっての外だった。
そうしていつの間にかその制度は忘れ去られ、半ば廃止の状態となっていた。
暗黙のルールが今、破られた。しかも破ったのは他ならぬルールの実質的な生みの親である。
「皆様にお話があります。
あぁ、手は止めなくて結構。耳だけ傾けてください。
知っての通り、今回の特別課題は不測の事態や重大な問題が幾つも発生しました。
しかも、それが他ならぬ学園の人間によって起こるという信じがたい状況です。」
全員が目を逸らす。この後何が飛んでくるか戦々恐々だ。
「当然、今回の件の首謀者、トランシア=バックドールは退学処分としました。
他の場所でも不正が次々と発覚したのでそちらも処罰の対象となります。
あまりに、嘆かわしい。」
胃が痛い。間違い無く処刑されると解っているのにギロチンの刃が何時落ちてくるか解らない。もういっそのこと一思いにやってほしい。
「しかし、不祥事や問題ばかりではありませんでした。
この度、ゴードン家当主、ショーマス=ゴードン氏より手紙を頂きました。
内容は当学園の生徒と交流して、『淑女の零』という制度を知り、是非その生徒をゴードン家に招きたいというものでした。
これは客観的視点において高い評価が得られたことの証左と言っても良いでしょう。」
話の流れが変わった。
ゴードン家。子女が居ないので学園との関わりが直接ある訳ではない。が、それでもその名前はよく知っている。
バックドール家を切ってゴードン家との繋がりが出来るというのであれば一石二鳥だ。
「その生徒というのは、一体?」
好奇心で訊く者がいた。話の流れが変わり、雰囲気が弛緩し、口が軽くなったのだ。
「彼が指名した生徒の名前は、シェリー=モリアーティーです。」
空気が一気に冷めた。
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