シェリー=モリアーティーの約束
笑顔と笑い声が迸る。
追って追われて、逃げて逃げられて、一緒に手をつないで走り回って転げ回って……誰が鬼だか解らない鬼ごっこを繰り広げていた。
シェリー君の果すべき約束。それはなんてことはない、以前にした『子ども達と一緒に遊ぶ』というものだった。
初めに、イタバッサ様から買った砂糖を使って、この前よりもずっと美味しいキャラメル香る木の実の山を作りました。皆さん顔も手もベタベタ。けれどその笑顔には変えられません。
次は全てが枯れ木になってしまった森へ行き、枝を杖に見立てての魔法使いごっこ。
最後にお願いをされてしまい、私が魔法をお見せすることになったのですが、自分の魔法を見られるという機会に恵まれることがなかったので緊張しました。
拙い魔法でしたが、皆さんから頂いた拍手と『きれい!』という称賛は忘れません。
そうして魔法使いごっこの後、今はもう無い霧の海を想像して木の枝から枝へと飛び移る遊びが始まりました。強度強化の魔法をかけながらの移動は、それはそれはやり甲斐がありました。
そうしている間に日は落ちて、一日が終わったのです。
「淑女の零、ですか……」
子ども達との遊びが終わり、仮住まいの部屋で緊張した面持ちのままつぶやく。
昨夜の一件から一夜明けて、何も知らない商人と偽記憶喪失男がシェリー君の元へやって来た。
その内容はと言えば、昨日何故か突然淑女が帰った事とショーマス=ゴードンの自己紹介、そして『淑女の零』の提案だった。
終始一貫して連中は一連の放火の件をシェリー君に隠して何事も無く終わらせにいった。
それに対してシェリー君は……
「そのお話謹んでお受け致します、よろしくお願いいたします。」
嘘を受け入れた。
「では、予め伝えておきたい事があるから今からでもどこかで話を……」
偽記憶喪失男改め……支援者サマが急いて話を進めようとして、シェリー君が制止した。
「申し訳ありません。私にはやり残した事……いいえ、先約が御座います。どうかそれが終わるまで、そのお話をするのは待っていただけますか?」
「何かお手伝いすることはありますか?」
イタバッサがそれを聞いて半歩前に出る。
「いいえ、これは私が彼らと結んだ約束。他の誰にも果たす事が出来ないものです。申し訳ありません。」
そう言って目線を走り回る子ども達に向け、その後頭を下げるシェリー君。対する支援者サマは笑って応える。
「いや、これは申し訳ない。私もどうやら気が急いていたらしい。では、この話は改めて、君が学園に帰った後で書面にてお送りしよう。
私は一度領地に戻ってやらねばならないことがある。急で申し訳無いが、これにて失礼。」
「こちらでお送りします。」
「ああ是非。馬車代は後程言い値で支払うと約束しよう。」
「正規の料金で構いません。彼らはそれ以上受け取らないので……」
そんなこんなで二人の報告が終わり、それから遊んで遊んで遊んで遊び尽くしていた。




