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残る後始末その8-18

 淑女の逆鱗に触れ、それでもなお啖呵を切ったショーマス=ゴードン。

 嵐の中、彼は眉一つ動かしていない。動揺も、無い。



 なんてことはない。

 滝のような汗が流れ落ちている。それなのに鳥肌が立ち、心臓は激しく鼓動して破裂寸前。手足が硬直して動かない、だが動かす必要が無くて良かった。

 ショーマス=ゴードンは正直逃げたい気持ちで一杯一杯だった。

 遭ったことはないが、竜の逆鱗に触れたとて、ここまで本能は恐怖を抱かないだろう。

 これから先、どんな恐怖が自分の人生に訪れたとて、これほど恐れる事はないだろう。

 だが退かない。

 ここで退けば、自分が高く評価したところで、彼女は悪意ある他人から難癖をつけられる。陥れられる。最悪居場所を失うことだって考えられる。村や町だって狙われかねない。

 しかし、ここで自分が『淑女の零』を通してしまえば、彼女は私の庇護下に入ることになる。そうなれば不用意に手を出す輩は減る。手を出そうとしても、私が彼女を守れる。

 彼女はここで詰まらない結末を迎えるべきではない。評価されるべきだ。

 これは、ゴードン家にとって、リスクになるかもしれない。彼女を敵に回すことがどれだけの意味を持つか、知らないわけではない。

 けれど、自分の目的を果たすためにも、そうしようと考えたのだ。


 嵐の中で、静かな声が聞こえた。

 「…………『淑女の零』は最高学年の者を対象として行うものです。彼女はまだ条件を満たしていません。」

 私が見たことのない表情を浮かべていた。

 「何も今すぐにというわけではありません。本人の了解を得る必要がありますし、申請や様々な準備もあるでしょう。条件を満たしたら、で構いません。どうか、一考を。」

 ただの沈黙が恐ろしい怪物に感じられた。

 一瞬が極限まで引き延ばされている。

 出来ることはやった。もう何も打つ手が無い。

 長い長い一瞬の後、答えは出た。

 「私がそれを認めても、本人が了承しない限り認められません。宜しいですね。」

 沈黙の中、何を考えていたのかは解らない。ただ、私は大勝負に買ったらしい。

 「勿論。交渉はこちらで行います。」


 「トランシア=バックドール、あなたには訊きたいことがあります。来なさい。」

 「……………………」

 茫然自失。あの乱気流に()てられて半ば気絶している少女の手を取り、淑女は商人と彼女の協力者に向く。

 「この度は当学園の生徒が無礼を働き、ご迷惑を掛けました。誠に申し訳ありません。

 被害を被った方々や物品の対応は必ず(・・)行いますので、少々お時間を頂戴したく思います。」

 深々と頭を下げる。そこに躊躇いは無かった。

 「こちらは構いません。」

 「私は被害を被っていないので問題ありません。それと、今回の件の報告書と淑女の零の申請は後程お送りしますので対応をお願いいたします。」

 「感謝いたします。それでは、私はこれで。」

 そう言って闇の中に消える寸前

 「健闘を。」

 たった一言、素っ気無いその言葉を置いて、淑女は村を後にした。




 いつの間にかもう1500話になりました、2000まで折り返しになりましたね。

 まだ500話分あるのにもかかわらず直ぐそこにあると思ってしまいます。


 連日沢山の感想とブックマークを頂き、買った漫画が楽しく、OPの七海さんが大舞台で感情革命ロックンロールを歌ったという朗報を聞き、吉日限りなしです。

 以前は無欲だったのですが、今はもっと楽しくしたいという欲で一杯です。

 どうか、これからも一緒に楽しんで頂けると幸いです。

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