残る後始末その8-16
「奇妙ですね。
ミスター=ゴードン、貴方のその調査結果によると、彼女の行いは一般的には淑女として称賛されるべきものだと思いますが。」
不正もなく堂々と。そして、人々のために粉骨砕身した。
いくつか劇的な事件を省いているとはいえ、これだけでも十分な結果である。
『淑女』というものの定義次第だが賞賛に値することをやっている。それは間違いない。何より目の前の最も淑女然としている御仁はそれを認めている。
「だからですよ。
才覚も金銭も人脈も無い少女がこれだけの規模のものを滞りなく動かす。
不自然極まりないでしょう。不正が無い方がおかしい。
いや、本当に……どうやってやったのか、その過程を知ってなお、解らないことが多過ぎるのです。…………不正を理由にしても中々話が通らないのですよ。」
最後の一文は小さく口の中で呟くように言った。考え込んだ表情をして俯く。
「そだ!おかしい!なんで、なんでだ⁉」
「しかし、不正は無かったのでしょう?」
「はい。」
「であれば、何故淑女ではないと?」
「いいえ。」
堂々巡りになりかけた答えが途切れる。空気が変わった。
「私の結論は『彼女の行動は淑女的ではないと断じる。』や『淑女ではない。』ではなく、『彼女の行動が『淑女的である』と完全に断じることは難しいと考えます。』というものでしたよ。
私は彼女の結果を全否定している訳ではありません。私は確固たる論拠が無いために彼女の結果を断定する事が出来ないと、保留すべきだと言っているのです。」
「何を、言いたいのですか?」
「現状、彼女の評価を確定させるべきではない、ということです。」
「貴方は……何が、言いたいのですか?」
ここで淑女は予感程度だが、気付き始めた。
ショーマス=ゴードンの言いたいことを、巧らんでいることを。
「評価を確認する場所は外部。
採点者は身分を隠して調べなければならない。
見ての通り妨害もあって妥当性のある判断も難しい。
そして、不正は無いが不自然な結果。
判断する環境として相応しいものが何一つありません。
これは一度、彼女の『淑女性』を再度調査するか、証明する場を設けるべきかと考えます。」
「ミスター=ゴードン。」
「その上で彼女の評価は確定すべきです。」
「ミスター=ショーマス=ゴードン。
私は調査を依頼しましたが、学園内部への干渉は認めた覚えはありませんよ。」
更に空気が変わる。張りつめ凍り付き斬り裂くようなものへと塗り潰されていく。
男は聖域に指をかけた。その行為が彼女に対しての宣戦布告になり得ると知りながらの行為だ。
「であれば、私は不確定な評価を除き、確定出来る要素で彼女を評価するしかありませんね。
それならば、私は伝え忘れていた確定情報を開示しましょう。」
この空気の中、笑みを浮かべて淑女に真っ向から向き合う。
評価頂きました。ありがとうございます。
毎朝投稿が若干揺るぎそうな窮地ですが、ここから大逆転を狙いに行きます。




