残る後始末その8-13
信頼出来る上に能力も高い。そんな有志達が一人ずつ、生徒達に張り付く形でいた。
ショーマス=ゴードンもその一人だった。
本来ならばシェリー=モリアーティーより一足早く現地入りして彼女を待ち構えるはずだったのだが、モラン商会の馬車が思いの外速かったこと、彼の個人的な別件に思いの外梃子摺ったことが重なって後から入ることになった。
そこまでで終わっていたら重大な問題ではなかったが、彼自身が襲撃され、魔力が枯渇しそうになったことでそれどころではなくなった。
まともに動けないというだけでなく、襲撃がシェリー=モリアーティーからのものという可能性や課題そのものの中止さえ考えられた。
だから、様子見の為に記憶喪失を演じていた。
そして結果的に、襲撃犯はシェリー=モリアーティーではなかった。
ある意味それ以上のことが起きていたが、課題という一点においては問題が無かった。
「ショーマス=ゴードン様でよろしいですよね?ゴードン家の現当主の。」
村の横に町が出来上がり、町中で不審な事件が起き始めた頃、後ろからそんな風に声をかけられた。
「…………」
急に本名で呼ばれて硬直しそうになったが、何とか取り繕う。
「私の部下が貴方の顔を知っていただけです。ご安心ください。」
ご安心のしようがない。けれど顔を知られているというのであればもうそこに嘘を吐く意味が無い。
「……そうでした。そう、私の名前は、私の記憶は……」
「大変申し訳ありませんが、今は緊急事態なのでそういったことは省略をお願いします。」
足から力が抜けそうになる。
「今、この町で起きている出来事を収めるために、貴方に力を貸して頂きたく、お願いに参りました。」
力が抜けかかった足に再度力が入る。
「それは、どういうことでしょう?」
「貴族の学園のお嬢さんが学び舎の課題のために来て直ぐ大貴族の当主が一人でやって来た。これが大都市なら無茶な考え方ですが、過疎の村でそれが起きたのなら、無関係ではないでしょう?
最初は妨害者かとも思いましたが、貴方はあまりにも消極的だった。
それは『妨害』だけでなく『協力』に関してもです。
まるで自分の力が彼女の結果に影響しないように配慮しているように。」
露見した。公に出ている時と今では髪型や印象で同一人物と解らないようにはしていたし、そこまで露骨な調査はしていない。
どこから露見したのだろう?何より、目的はなんだろう?
「お願いというのは?」
一歩踏み込む。ここまでこの商人も見ていたが、用意周到な時は徹底的に用意周到だし、大胆な一手を打つ時はそれをやる意味があるときにだけやっている。
ここでこんな風に私の正体を口にしたということは、一歩や二歩退いた程度ではどうにもならない位には、こちらは詰み状態なのだろう。
「難しいことではありません……私の商人としての経験上、この言い方で本当に難しくない事だった試しは無いのですが、今回に関しては難しくない事だと断言出来ます。」
「……それは?」
「貴方が見聞きした事を正確に、正直に、かの淑女に伝えてほしい。それだけです。」
「…………は?」
今更のお話で本当に恐縮ですが、
先日、本作内で火事に関する描写がありました。
現在あのような描写をすることは少しデリカシーに欠けるかもと、今更考えに至りました。
申し訳ありません。ご不快な場合は遠慮無くお伝えいただければと思います。




