残る後始末その8-10
口だけのアマチュアの戯れ言なら、聞く耳持たずで怒りを懐に仕舞って鼻で笑えばいい。
的外れで、頓珍漢で、何より実績も事実も無い空の音の羅列なんかに価値はない。
けれど、酸いも甘いも売り尽くした商人の、おそらく実体験に基づいたであろう言葉は値千金だ。
「たとえ信頼していた相手に財産全てを奪われても。
たとえ空腹で石を口にして空腹を紛らわすとしても。
たとえ十把一絡げの奴隷のおまけとして売られても。
たとえ散々こき使われた上に用済みと殺し屋を差し向けられても。
そんなものに飛び付いては、終わりです。
実力で買い取ることを諦めるべきではなかった。
自分を安売りしては商人失格です。
貴女は最後まで真っ当な商人として戦うべきでした。」
目はこちらに向いているが、見ているのは私だけではなかった。その後ろにある、色濃く心に焼き付いた光景でも見ているのだろうか。
いや、もうそんなことはどうでもいい。
私は商人として否定された。
物心ついてからずっとそうあり続けたものを否定された。
言っている相手は実力者で、言っていることに矛盾はなくて、何より私が言っていることを否定出来ずに認めてしまっている。
私はこんなことをしなくても勝てる。その通りだった。他の連中は親の金やコネを使っても足元を見られてカモにされて思うような成果なんて上げられる筈はなかった。
私なら、足元を見られず一商人としてやりあうことが出来た。全勝は無理でも収支プラスに持ち込むことなら出来た。
自分の財産と手と足と口と頭を駆使すれば、いくらでも他人に認めさせることが出来たはずだ。真っ向からやって私は勝てない訳がない。
けれど、なんで、私はそうしなかったんだ?
絶対に勝てたのに。自分に自信があったのに。
「この村、町に来て妨害を仕掛けた点もそうです。わざわざこんなことをしたのは何故か?」
そうだ。わざわざ自分でここまで来て、火の準備までして、自分よりも身分の低い相手を必死に邪魔したのは……
「貴女は嫉妬で目が曇っていたのですよ。
自分よりお金と身分に恵まれていることを妬んで。
自分より才覚と人望に恵まれていることを妬んで。
自分が相手よりも劣っているところだけ目について、自分が相手よりも恵まれていることが見えなくなって。
自分が相手よりも恵まれたいと思うあまり、自分が恵まれていることに気付けなくなった。
恵みに気付けなくなった商人はもう終わりです。」
足元がふらつく。
目が回る。
吐き気がする。
力が抜けていく。
最大級の侮辱と否定。そして後悔が全てを覆いつくした。
報告が遅れて申し訳ありません。ついに、600万PVを突破しました。
皆様無しでここに来ることは出来ませんでした。虚無の道ではなく、楽しみに満ち満ちた道をありがとうございます。
来年度にはモリアーティーは次なるステージに行くと思いますので、これからもお付き合い頂けると幸いです。




