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残る後始末その8-9

 「ここに来るまでの間、幾つかの組織が学園の生徒を不当に拘束しているという事例がありました。

 貴女は代理人を立て、証拠を廃棄するように厳命したのでしょうが、その物的証拠が幾つか見付かりました。」

 そう言って懐から取り出される書類の数々。魔法で照らされたそれが動かぬ証拠だということは直ぐに解った。

 「拘束された全生徒はこちらで確保し全員無事だったので大きな問題はありませんでした。

 が、貴女の成したことは大規模な誘拐です。淑女として、いいえ、それ以前に許される事ではありません。」

 知ったことか。バレなければ、罰することが出来なければそれは犯罪ではない。

 「何より、貴女の行った事は愚かしい事この上ない。あまりにも、思慮が足りていません。」

 は?

 聞き捨てならないセリフが聞こえた。

 思慮が足りていない?私が?馬鹿では商人なんて務まらない。

 何言っているんだ?

 「誰が何処に配置されるか情報を集め、それを使って対象者を間違い無く害するであろう相手を見極め、自分の足跡を辿られない様に細工をして接触をして……それだけの手間暇をかける余裕があり、それを可能にする手段と頭脳があるのなら、何故課題でそれを活かさなかったのですか?

 その力を正々堂々振るい、貴女が貴女の淑女を証明すれば、私はこうする必要はありませんでした。

 貴女は、貴女の淑女を誇れたのです。」

 表情は険しい。そしてそれはなぜか、どこか、悲しげに見えた。


 淑女を証明する。

 どうでもいい。そんなこと、どうでもいい。私は淑女になりたいなんて思っていない。

 綺麗な服を着て、上辺だけ取り繕って、力も無いのに威張り散らしてふんぞり返っている……そんな奴に誰が成りたがる?

 そうだ。淑女淑女なんて言っているが、あの学園に居る奴らなんてそんなもんだ。

 あそこには箔付けと金になる情報集めの為に行っているだけなのだから。




 「もし、貴女が商人だというのなら、わざわざこんな危ない橋を渡る必要なんて無かったでしょう。」

 耳を塞いだ手を引きはがす様に、その男は言葉を突き刺してきた。

 「商売柄、色々と情報は回ってきますが、最近あちこちで愉快ではない出来事が起きていると耳にします。

 矢鱈と多発している誘拐事件とそれに伴う治安の悪化が起きているという話。

 手慣れていない詐欺師に高額な商品を売り付けられ、それが不良品だったが故に事故が多発しているという話。

 前者は治安の悪化を招き、それは商人の首を絞めます。

 後者は商人の信頼の喪失。それも商人の首を絞めます。

 何より、あちこちの盗賊や犯罪組織と繋がりを持ってしまった……しかも自分の痕跡を相手に掴まれてしまった。

 商人として、致死性の、文字通り致命的な失態です。

 彼らにとって我々商人は食べても食べてもそう簡単に死なない、増える家畜のようなもの。

 しかも、たとえ食べ過ぎて殺してしまっても問題の無い家畜なのです。死んでもまた代わりを捕まえれば良いのですから、ね。」

 商人は終始穏やかな営業向けの笑顔。だが、その後ろ側に汚泥のような気持ちの悪いものがどろどろと流れている気がした。

 「一度掴まれてしまえば、彼や彼女らとはもう二度と離れる事は出来ないのです。

 最初は真っ当な商人であった人が、一度繋がりを持ってしまい、何度も何度も食い物にされて商会を潰され、諦めて向こう側に落ちた……そんな人を知っています。

 その人は元々自分と同じだった人々を喰い物にして、最終的に捕まりましたよ。」

 笑顔の目の奥は真っ黒だった。

 「先の事を考えずに短絡的に目前に見えた上辺の利益に目が眩んでは、商人とは言えません。

 そんなことを許容するくらいなら、商人を辞めた方が身の為です。」



 そうして闇堕ちした商人は怪物を捕まえて何とか回るようになっていたのに、足を洗わずそのまま堕ちていった結果、狩られたのでした。

 そうして封印されていた怪物は野に放たれて、ここに。

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