残る後始末その8-6
なりふりなんて絶対構わない。
そんなものは犬にでも食わせておけ。私は温かくて旨い飯を腹が割れるまで食べてやるんだ。
他人の事なんて絶対考えない。
そんなことは他人にでも考えさせておけ。私は私がより幸せになる方法だけを探し続けて、必要なら他人から奪い取るか騙し取ればいい。そして他人が自分のものに手を出そうとしたときには阻止すればいい。自分のものが騙し取られたらなんとしてでも騙し返せ。
奪われたらなんとしてでも奪い返せ。
大昔、どこからかやって来た異邦人が『人はパンだけで生きているものではない』と言ったらしい。
そいつからパンを取り上げて、餓死する最期の時までそれを言い続けられるか試してみてやりたい。
人はパンが無ければ生きていけない。先ずパンを寄越せ。パンを、肉を、野菜を、家を、服を、力を、金を、そう金だ。
金があればいい。金があればパンを工場ごと買い取れる。
パンが無ければパンを作らせろ。金ならくれてやる。
世界にパンが一個だけしかなくても金で手に出来る。
金のため。力のため。私のため。
私は、私達は金とそれが持つ力で生き残る。
邪魔な奴は蹴落とす。
そして積み上げた金の上に立って、てっぺんに成り上がるんだ。
その金が汚かろうと、血に濡れていようと、流した涙の跡があろうと私の知ったことじゃない。
金は金だ。
明るく人通りが絶えないスバテラ町ではなく静かなスバテラ村の隅で、町で売っていた油を撒いたところで……
「暴れ馬の手綱を握れない。
それなら鞭で調教して従えるか、あるいは暴れ馬を暴れ馬のまま使うかと考えるでしょう。
調教は難しそうだからと、囮役にして切り捨てたわけですか…………」
声が聞こえた。だがもう遅い。
懐から出した発火装置を油に向けて投げつける。
こっちとしては燃えても構わないが、あっちはそうもいかない。
その隙に逃げてしまえば
「そこまでです。」
破裂音と一緒に発火装置が爆発した。
故障?違う、爆発したけど火は見えなかった。
外から加わった何かの力で壊れたんだ。
「人の住まう場所に火を点ける。
それがいかに浅ましく、愚かしく、恐ろしく、冒涜的なことかが解らないとは……見下げ果てた在り方です。」
今まさに燃やそうとしていた家から音も無く現れたその人。
厳格厳粛、金でも力でも靡かない、非常に厄介な相手だった。
「こんな夜更けにごきげんよう、トランシア=バックドール。
今は校外課題中だというのに何をやっているのですか?」
陽動に揺らがず、今この一帯で『最高戦力』と呼ぶに相応しい淑女がそこにいた。




