残る後始末その7-6
来た。
報告が入る3分前、イタバッサはその人が来ることを確信していた。
会ったことはない。けれど彼は今回、その人を詰めの一手に組み込んでいた。
商人としての本能が、この先には死と商機が待ち構えていると知らせていた。
音にも聞いたお伽噺のような噂話。
鱗は剃刀の様に切れ、鰭には槍の様な棘が生えている獰猛な肉食魚、『暴魚』がいる。
それらはごく稀に大量発生して、共食いしながら岸に向かって波のような群れを形成しながら衝突して周囲を切り裂き、食い荒らし、沿岸部の地形や町を書き換える『暴魚の波』という現象を引き起こす。
8年前にとある漁村の沖でそれが起きた時、周辺被害が無く終わったという珍しいことがあった。
気になった者が訳を聞いたところ、村人達は1人の女が海岸に向かって鞭を振るい、『暴魚の波』を追い払ったと口々に言った。
根も葉もない噂話。文字通り尾ひれが付いて誇張された話、偶然避けた『暴魚の波』と『謎の女』の動きが合致しただけだ…………本来はそう片付けられるはずだった
その場に『暴魚の波』を観測するために著名な海洋学者が来ていて、その噂話を真実だと断言し、後にその時見た鞭の動きや暴魚の反応を見て『暴魚の波避け』を考案して『暴魚の波』被害を本当に減らしたという話がなければ片付けられた。
その場にはこれから来る人がいた。
後に『刺客の鎮魂歌』と呼ばれた事件。
裏社会の人間が何故か一斉に1人の人間を標的にして動くという事態があった。
殺せた者は複数の依頼者が積み上げた法外な額の財を手に入れられると言うことで業界全土が色めき立っていた。
397人。
397人の刺客がたった1人の標的によって1日で生かしたまま殲滅され、全員が廃業を余儀無くされた。
誰もがその依頼を受けることがなくなり、依頼者は失脚。結局その依頼は達成されずに終わった。
その標的だった人物はこれから来るゲストだ。
彼は武力に秀でていない。
だが、商人としての刃は持っているつもりだ。
人脈を駆使して絶え間無く動き続けるその人の動きをなんとか補足した。
金や物を駆使してその人の動きをこちらに誘導した。
あの怪物になんの魅力も感じなかった訳ではないが、手に余ると思った。そんなものは後生大事に取って置こうとすれば、痛い目に合うのは時間の問題だ。
だから、その人の嵐の様な動きを何とか誘導して、怪物とぶつけた。
商人らしからぬ『危険な賭け』をした。
だが、取り敢えず一回目は勝った。
怪物の痕跡は一切残っていなかったという話で、その人は無事で、誘導した通りにここに向かっている最中だ。
違う。
もう、目の前に来ていた。
「ごきげんよう。私はアールブルー学園学園長のフィアレディーと申します。以後お見知りおきを。
単刀直入に申し上げます。私をここまで招いたのは、貴方でしょうか?」
本番はここから、手に汗握るというやつだ。
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